迷子のシンデレラ

 グラスへ口をつける薄い唇。
 グラスを傾け、上下する喉元。
 色気漂う彼を見つめていると「君は僕を瞳で犯すつもりかい?」と視線を寄越した。

 否定することは叶わなくて、肩に回された手に体ごと引き寄せられた。
 そして、唇を重ね合わせる。
 ほんのり爽やかな甘い香りが智美の唇を覆った。

「どう?
 こういう楽しみ方もいいだろう?」

 今度はスパークリングワインを口に含んだ彼が智美の口の中へと流し込んだ。
 ほんの少しのアルコールと彼の色気にふわふわと体が浮遊する。

「君、名前は?
 いつまでも君ではあまりにも色気がないじゃないか」

 恵麻、とは名乗れない。
 恵麻に迷惑がかかってしまう。
 かといって、智美とも名乗れない。

 目を伏せて小さく問う。

「あなたの、お名前は?」

「僕かい?
 僕は……ジョージかな」

 考えあぐねた先の『ジョージ』という名を聞いて、智美は口を開く。

「それでは、私はシャーロットと」

 智美の答えを聞いて彼はフッと息を吐いた。

「ジョージとシャーロット。
 イギリス王室の王子と王女ってわけだね。」
< 11 / 193 >

この作品をシェア

pagetop