迷子のシンデレラ
彼だって本名ではないだろう。
これは一夜限りの淡い夢なのだから。
「イギリス王子の名前は僕にはおあつらえ向きかもしれない。」
感慨深そうに話す彼に軽口をこぼす。
「ご自分を王子様だって言いたいんですか?」
確かに彼の深いエメラルドの瞳や、色気漂う薄い唇、マスクをしていても分かるスッと伸びた鼻梁は王子そのもの。
ごく普通の容姿をしている智美の方が『シャーロット』と名乗るのはおこがましい。
けれど彼は否定すると、口の端を上げて吐き出すように言った。
「いや、そうじゃないよ。
ただ、母親は僕を産んで亡くなった。
しかも死因は曰く付きだ」
「曰くって……。」
これは作り話の延長かもしれない。
孤独な王子を装って慰められたいだけなのかもしれない。
けれど、彼のマスクの隙間からかろうじて見える瞳は揺れていた。