迷子のシンデレラ

「葉山さん……あの」

「もう葉山さんはやめてくれないかな?」

「え……でも……」

「まぁ、後々、ね?」

「はい」

 葉山は最初こそ凄まじい形相で怒っていたけれど、今は穏やかな顔をしている。
 彼のあんな顔を見たのは初めてだった。

「あの、さっきすごく怒っていたのは私に、ではなかったんですか?」

 おずおずと質問を向けると葉山は苦笑した。

「ほら、敬語ももういらないから」

「でも……」

「じゃ、それも追い追いだ」

 葉山は楽しそうに笑う。

「今は、怒ってないんですか?」

「怒っていたのは自分自身と、それとあの変な男に、かな。
 もちろん、勝手にいなくなった智美ちゃんにも怒っていたけど、会いたかった人に会えたら怒りが持続しなくて。
 愛おしい思いが優って」

 そう言って、葉山はまぶたにキスを落とした。
 甘い雰囲気に酔ってしまいそうだ。

 彼の腕の中で抱きしめられ、たまに見つめ合う。
 まるで恋人同士だ。

 けれど甘い雰囲気から現実へと引き戻す質問を智美は敢えてした。

 夢と現実の線引きをしっかりしなくては。
 夢だけを見て生きては行けないから。


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