迷子のシンデレラ

「……痛っ」

「え? もしかして……」

 息を飲んだ彼が智美の体から手を離した。
 身動いでも体を捩っても執拗に追ってきた熱い指先が躊躇して離された。

「いいんです。やめないで……。お願い」

 泣き出しそうな掠れた声が情けなく漏れた。
 彼の吐いた小さなため息が智美の胸を締め付ける。

 優しくおでこを撫でた彼が、額にキスを落とした。

「ダメだよ。無理したら」

「でも……」

 恥ずかしくて消えてしまいたかった。
 彼に縋り付いて体を重ねてしまいたい。
 そんな不埒な考えしか浮かばない。

 彼は額から優しく唇へもキスを落とした。

「大丈夫だから。ゆっくり。ね」

 駄々っ子を慰めるような口ぶりに素直に頷くと「いい子」と彼は言って、再び智美に触れる。
 先ほどの熱情に浮かされた触れ方とは違う、優しく愛に満ちた触れ方で。

 隅々まで触れられて意識が飛んでしまいそうな刺激の向こう側で彼と一つになった。
 痛みよりも悦びの方が大きくて、それなのに涙がひとすじ流れた。

 その涙に彼はキスをして、余裕のない切なそうな顔つきで智美のより深くへと侵入していった。

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