迷子のシンデレラ

「どうして? と、聞いていいかい?」

「……何がですか?」

 彼は智美を腕に抱き、優しくマクスの頬を撫でた。

「どうして経験が無かったんだい?」

「それは……」

 黙り込む智美に「では質問を変えるね」と前置きをして「その指輪は何?」と質問を向けた。

 智美は観念して口を開いた。

「母が、母から譲り受けたんです。
 私が大人になって本当に大切な人が出来たら送りなさいって」

「そう……」

 頬から手は胸元に滑り落ちて指輪をつかんだ。

「これは、僕がもらってもいいってことかな?」

「え?」

 思わぬ発言に目を見開いてマジマジと彼を見つめた。

「冗談だよ。冗談」

 彼は整った唇の片方だけを上げて続けた。

「外してはダメ?
 理由を聞いてもやっぱりいい気はしないよ」

「外すのは……いいですけど」

 戸惑い気味に答えると彼は思いを吐露した。

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