迷子のシンデレラ

 心惹かれつつも煌びやかな宝石に躊躇していると、様子を見に来た恵麻が智美の心を読んだように声を掛けた。

「そのマスク綺麗よね。
 さすがに本物のルビーは使っていないから安心して」

 恵麻の説明に安堵して、マスクを手にした。
 ヘアメイクさんが受け取って顔につけてくれる。

 マスクを付けた智美を鏡越しに確認した恵麻は自分のことのようにはしゃいだ。

「ヤダ! すごく色っぽい。
 口元の付けボクロ、印象的でいいわ」

 いいと思うと手放しで褒めてくれる恵麻の賞賛が気恥ずかしい。
 それにいくら一番顔を覆いそうなマスクでもこれではまだ心許なかった。
 
「でも、これじゃ不安で……。
 ……あ、これも付けたいです」

 見つけたのは口元を隠すカーテンのようなレース。
 端を耳にかけると口元で揺れて呼吸もなんなく出来る。

 これだけ隠せれば多少は安心して舞踏会に参加出来そうだ。
 けれど恵麻は不満顔で訴えた。

「ほとんど隠れてるじゃない!
 せっかく可愛くメイクしてもらったのに」

 恵麻が頬を膨らませてもこれだけは譲れなかった。

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