迷子のシンデレラ
「冗談ではないよ。
ここ、ちょうど僕の帰り道でね。
毎日君を待ってた」
そんなの智美の心を揺さぶりたいだけだ。
昨日もその前も葉山はいなかった。
自分をからかって何が楽しいのだろうと、訝る視線を向けた先に忘れていたエメラルドグリーンの瞳に囚われた。
「五分だけ。
毎日五分だけ待ってそれで会えたら僕の勝ちだって決めてた」
立ち止まった智美に彼も足を止めた。
吸い込まれそうな瞳に見つめられ、胸が痛くなる。
「勝ちって何に、対して……」
「運命、かな」
意味深に呟く彼は勝手に智美の手を取って歩き出す。
あの瞳に見つめられた智美は抗えない。
繋がれた手から熱を帯びて体全体が熱くなる。
本当に毎日五分だけでも自分を想って待っていたかもしれない。
彼の戯言を信じるなんてどうかしてる。
そう思うのに、今日会えたのは本当に運命なんじゃないだろうかと思ってしまう自分がいた。
先を歩く彼に気付かれないように胸の前で片方の手をギュッと握る。
そこにはない指輪に思いを馳せて。
お願いします。
もし神様がいるのなら。
少しだけ、彼との夢の時間をもう少しだけ。