迷子のシンデレラ

「そうですね。
 生活もありますし、せっかく就職できた今の会社で勤めていきたいです」

 変えられない現実。
 熱かった体もスーッと冷めていく。

 彼が探しているのは、あの日のお姫様シャーロットであって、庶民の榎下智美ではない。
 ただ、シャーロットと重ねて側においておきたいだけなのだ。

 彼は背けていた顔を智美へ向き直して柔らかな微笑みを向けた。

「そう。仕事、頑張っているみたいだしね。
 何か資格を持っているんだろう?」

「えぇ。簿記を。
 受け付け業務以外に経理を担当しているので」

 資格を取ってどこででも生きていけるように。
 きっと彼とは違う。
 自分が生きているのはそういう世界。

「しっかり者なんだね。偉いなぁ」

 彼が送ってくれる称賛をどこか冷めた心で受け止めた。

< 67 / 193 >

この作品をシェア

pagetop