迷子のシンデレラ
「そうですね。
生活もありますし、せっかく就職できた今の会社で勤めていきたいです」
変えられない現実。
熱かった体もスーッと冷めていく。
彼が探しているのは、あの日のお姫様シャーロットであって、庶民の榎下智美ではない。
ただ、シャーロットと重ねて側においておきたいだけなのだ。
彼は背けていた顔を智美へ向き直して柔らかな微笑みを向けた。
「そう。仕事、頑張っているみたいだしね。
何か資格を持っているんだろう?」
「えぇ。簿記を。
受け付け業務以外に経理を担当しているので」
資格を取ってどこででも生きていけるように。
きっと彼とは違う。
自分が生きているのはそういう世界。
「しっかり者なんだね。偉いなぁ」
彼が送ってくれる称賛をどこか冷めた心で受け止めた。