迷子のシンデレラ

 内村課長の代理で再び朝岡物産へ行くことになり、柄にもなく浮き足立つ。
 受け付けへ行くと彼女の姿はなく朝岡物産のご令嬢の朝岡恵麻が立っていた。

「彼女は……」

「今日は朝からの会議に駆り出されてて」

「そう」

 あさらさまに気落ちしていたのが顔に出ていたのか、朝岡から「お昼をご一緒しましょう? 色々と話したいことがあるし」と誘われて、了承した。

 昼になり待ち合わせをした場所から高級店の個室へ連れてきても当たり前の顔をしている朝岡に心の中で苦笑を漏らす。

 もちろん、彼女はそういう態度を取るべきお嬢様で、彼女の態度こそが普通だと自分自身も思っていた。
 彼女の振る舞いの方が好感が持てるくらいだ。

 大袈裟に喜んだり「こんな素敵なところ夢みたい」とうそぶく女性にうんざりしていたのだから。

 それが智美はどうだ。
 高級店は遠慮する上に支払いたいと管を巻く。

 管を巻くところを間違えているだろうと彼女に教えてやりたいくらいだ。

 前のバーの支払いは押し切られそうになり、次回こそは彼女に支払ってもらう約束を取り付けられた。

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