かりそめ婚!?~俺様御曹司の溺愛が止まりません
「喜美江……」

漆黒の艶やかな髪を結い上げて、モスグリーンのお着物に身を包んだ喜美江さんが運転席から姿を現した。

「わ……びっくりした、颯志くんじゃない。どうしたの? 怖い顔して……」

「……悪い。急いでいるんだ」

颯志くんはぶっきらぼうにそう答えると、喜美江さんの脇をすり抜けて足を速める。

けれど。

「――その人だよ、瑠莉ちゃん」

不意にうしろから沙之くんの声が響いてきて、私は颯志くんに手を引かれながらも振り返った。

喜美江さんの後方、かろうじて表情がわかる距離に、ポケットに手を突っ込んだ沙之くんが立っていた。

「兄貴が本気だった女性は、その人だ」

その言葉に、颯志くんがぴたりと足を止める。そして、その短い言葉で意図を察したのか、喜美江さんが戸惑った表情で顔を伏せた。

颯志くんが、過去にたったひとり愛した女性。ご両親に引き裂かれた、今も忘れられない想い人。

それが、喜美江さんなの?
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