Shooting☆Star
待ち合わせ場所へと戻ると、カレンが祐樹の手を引いて歩き出した。
「ね、せっかくだから、ショーも近くで観ようよ。」
誰かに見られることも、人混みも平気と言わんばかりに、お目当てのキャラクターの良く見える場所を探す。
はぐれないように、ダイチは百香の腰を抱くようにして歩く。
これが上手くいけば、祐樹の表向きの恋人は百香で、ダイチの表向きの恋人はカレンだ。だからカレンの格好をした私の隣にダイチがいることはなんの不思議でもない、
そう自分に言い聞かせる。
普段、あまりにもバレないように行動する癖がついていて、ダイチの隣を寄り添って歩くだけでドキドキする。
少し前を歩く祐樹とカレンを眺める。祐樹はいつも通りだ。
いつも通りふざけていて、いつも通り優しい。
しかし、もともと無邪気で演技も上手いカレンが、遠慮なく祐樹に甘える姿に百香はハッとした。
これは、もしかしたら、まずいんじゃないの?だって、私達、昨晩からずっとターゲットにされてるんだよ?いくら社長に「撮らせてやれ」と言われているとはいえ、ちょっとやり過ぎなんじゃないの……?
というか……これから私はあの距離感で祐樹と接して行かなきゃいけないのか……?
百香の心配をよそに、祐樹とカレンは楽しそうに笑いあっている。
ダイチの顔を見上げると、彼は呆れたような顔をしていた。
「あいつら、あんなに仲良かったっけ?」
「んー?殆ど初対面だと思うけど。」
「だよなぁ。……あのまま付き合っちゃえばいいのに……。」
それは流石にどうかと思うよ……と、言葉を飲み込んで「そーだね」と相槌を打つ。
バレない確信があるとはいえ、自然に振る舞うってどうやるんだっけ?と、そんな事ばかり考える。
念願のデートなのに、ちっとも楽しめない。
「せっかく二人が協力してくれてるのになぁ……」
「協力っていうか、ふつーに楽しんでるだろ、アレ。」
「楽しみの代償が、大き過ぎない?」
きっと、次の火曜は事務所の電話が鳴り続ける。
週刊誌だけでなく、ワイドショーも加わって、仕事も外出もままならなくなる。
彼も私も何度も経験してきたことだ。
ただし、過去の私はただのマネージャーで、当事者じゃなかったけれども。
「なるようになるよ。ってか、少なくともさ、百香のことは俺が守るから。」
ファンが聞いたら卒倒しそうなことを、彼はサラリと言う。
「でもさ、結局、私までスキャンダルになるんだったら、最初からダイチと私でいいじゃん……何もユウくんまで巻き込む必要なかったじゃん……」
口に出してしまってから、しまったと思った。
そもそもカレンを巻きこんだのは私だ。
ダイチだって、好き好んでこんなことになっているわけじゃない。
自分達の価値を下げない為に、事務所に従っただけだ。
デビュー20年を目前に今尚人気の中堅アイドルと、モデル上がりの駆け出しの女優の恋。ダイチとカレンの組み合わせは、今後、間違いなく話題になる。
一部のファンからは妬まれるだろうけど、事務所にとってみればそれは大した損害ではない。
一方で、デビューから20年ずっと天真爛漫で純真なザ・男子!なキャラで、浮いた話のひとつもない祐樹に恋人がいた。
彼を影から支え続けたマネージャーとの地道な恋。
……まあ、これも賛否はあるだろうけど、祐樹にマイナスのイメージが付く事はない。どういう心理か、親戚のような気持ちになって応援するファンもたくさんいるだろう。
わかってる、けど。
でもね、ダイチ。貴方は知らないだろうけど。祐樹は本気なんだよ。本気で私のことを好きで、本気でダイチのことが大好きで、私達を助けようとしてくれてる。
これって凄く残酷なことじゃない?
「ねえ、ダイチ。ユウくんに感謝しなきゃね。カレンちゃんにも。おかげで、こうして甘えられるわけだし。」
ダイチの顔を見ないように、その身体にギュッと抱きつく。
みんなショーに夢中で、私達のことなんてきっと気にも止めてない。
視界の端でカレンと祐樹がこっちに手を振るのが見える。
耳元でダイチが小さく囁く。
「本当のことは俺たちだけが知っていればそれでいいだろ。大丈夫。」
だって、これは、嘘だから。
ダイチは、まるで小さな子供をあやすみたいに百香の背中を撫でて、それから二人に手を振り返した。
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