Shooting☆Star

☆6話☆

想像通り、事務所の固定電話は朝から鳴りっぱなしだった。
隙をついて受話器をあげ、ひとまず繋がらない状態にする。
こうしておけば、相手には通話中で繋がらない通知がされる。
少しは時間稼ぎになるだろう。
普段は携帯に転送させている番号の設定は、昨晩のうちに解除しておいたので、携帯に掛かってくるのは関係者からだけだ。
この数十分で対応した電話の大半が週刊誌に“載ってしまった”当事務所のタレントへの抗議と失望のご意見で、残り半分が「マネージャーという立場の従業員が所属タレントへ手を出すとは何事か?」という至極もっともな説教の類いだった。
私がそのマネージャーですけど…などと、言えるわけもなく、「申し訳ございません。貴重なご意見として、全て上に伝えさせていただきます。ありがとうございます。」と、心にも無いテンプレートを繰り返して、全てをやり過ごす。
「知らんがな。そんなもん。ゲーノージンだって人間だし、私だって自由なわけじゃないんじゃい。好き勝手なイメージで喋りやがって。」
百香は事務所にひとりなのをいいことに、思う存分に悪態を吐いて、応接用のソファーに横になった。
…まあ、実際、8割くらい私が悪いんだろうけどな。
テーブルの上に無造作に置かれた週刊誌を取り上げ、パラパラと捲る。
Wスクープ!とセンスの無い赤い見出しが踊るその記事は、とあるアイドルとそのマネージャーのお泊まりデートの一部始終と、同グループのリーダーと女優との有名テーマパークでのWデートの様子がしっかりと書かれていた。
このカメラも印刷技術も充分に発達した時代に、画質の悪い写真と読み難い文字を並べて好き勝手な妄想を書き綴ったものを、記事と呼ぶのも不快だ。
残念なことに、それは記者の妄想ではなく。1週間ほど前に、その写真の人物達が現実に起こしたことなのだが。

スマートフォンを取りだし、SNSの検索欄にいくつかのキーワードを打ち込む。
出てきた検索結果の1ページ目だけに、ざっと目を通す。

〈ダイチはもう確定だよね。本人コメントしないのかな?〉
〈S☆S全国ツアー始まるって時に何やってんの…。東京の後半からユウの動き変わったの、これ関係あるのかな…?〉
〈これは応援出来る!!祐樹は幸せになってー!〉
〈ユウの相手、マネージャーってマジ?〉
〈S☆SのMG何人かいるよね。相手のMGってあの人かな。見た事ある。〉
〈祐、やっとかー!彼女出来て良かった!なんか逆に安心した!〉

「…なんか逆に安心した…」
気に入ったコメントを声に出して読んでみる。
現実は、ちっとも安心出来る感じじゃ無いけど。
思ったよりもバッシングは無くて、でも疲れるからエゴサは辞めないとな…と、思う。

今頃、みんなは音楽番組の収録中だ。
今日のはトークの無い番組で良かった。
本当は私も付いて行く予定だったのだけど、今は外に出ない方がいいって、本間さんがひとりで行ってくれた。
代わりに私はお留守番。
ダイチと祐樹の午前中の仕事が終わり次第、社長と合流し、4人で話し合いをすることになっている。
ツアーは1週間の休演を挟んで、来週からステージは東京、東海・関西と南下して福岡まで行き、北海道へと飛ぶ。北海道から再び南下しつつ、東京へ戻ってのファイナル。
東京と大阪は毎日やるけど、地方は木曜・金曜の夜と土日の昼夜の週の後半だけ。前半は移動を兼ねた観光と、ローカル雑誌や番組への出演等。
ほとぼりが冷めるまで、世間ではカレンがダイチの彼女で確定という扱いになるのだろう…カレンは笑って否定しそうだが、ダイチはどうするんだろう?
祐樹はきっと否定しないだろうな。
いつもみたいにふざけた顔して「いやもう、オレも必死なんで。頑張ります!」とか言って肯定も否定もしないで笑いを取りに行く。
簡単に想像出来る。
私は、ノーコメントだな。何かあっても「仕事がありますので」って言い続けて、この嵐が通り過ぎるのを待とう。みんながすっかり忘れてしまうまで、じっと待っていよう。
全部、狙い通りだし。大丈夫。
自分に言い聞かせて、目を閉じると、深呼吸をして仕事に戻った。
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