Shooting☆Star
ランチタイムを利用して、ダイチと祐樹、百香と社長による話し合いの結果、社長の指示とカレンの協力により、ダイチとカレンは公式には「本人達の判断に任せている」とし、関係は否定しない方向で行くことになった。
百香と祐樹に関しては、事務所から公式に付き合いを発表することで、余計な勘繰りや追跡をさせないことを優先させる。
どちらも会見等は開かず、公式サイト及び各SNSへの文書での発表と、木曜夜のラジオ番組でのコメント、ツアー中のMCで触れるのみの発表とすることにした。

ラジオの収録は今夜、他の予定を変更して既に収録した分と一部を差し替えることになった。
午後の1番に公式サイトが更新され、同時にSNSへの投稿もされる。
他のスキャンダルと同じく、全ての対応は本社でする為、百香は今夜の収録の準備に当たることになった。
収録スタッフの手配をし、事務所に戻ってスタジオの準備をする為に外に出る。
出口でいくつかのカメラに囲まれるが、百香は全て無視して車に乗り込む。



最初に事務所に帰ってきたのは、秀だった。
ドアを閉めるなり「あれ何?」と険しい顔をする。
普段は寡黙な秀が怒る姿はなかなかに迫力があった。
「ごめん、後で説明するから……」
百香はそれだけ言うと、スタジオの掃除をはじめた。
打ち合わせ無しに、迂闊なことは言えない。
落ち着かない気持ちを紛らわすために、黙々と掃除機をかける。
みんなの気持ちを考えると、祐樹から説明してもらった方が角が立たないだろう。
隠し事はともかく、メンバー内で嘘は吐かせたくなかったけど。
社長は、メンバーにも本当の事を言うことを許可しなかった。勿論、本間さんにも。百香はメンバーを騙すようなことをしたくないと訴えたが、「そもそもあんた達が蒔いた種でしょう。」との一言で、百香とダイチは何も言えなくなった。

拓巳と圭太、弘也が一緒に戻ってくる。
「ただいまー!」
やけにはしゃぎながら事務所に入ってきた拓巳に、雑巾を洗っていた百香は振り返らずに「おかえり」と答える。
まっすぐに百香の隣まできて、シンクに寄りかかるようにして拓巳は百香の顔を覗き込んだ。
「モモちゃんって、あんな顔もするんだ?」
「えっ?」
どんな顔?想定外の発言に、思わず聞き返してしまう。
「いつものお母さんみたいな顔じゃなくてさ。写真見て、なんか、モモちゃんも、ちゃーんと女の子なんだなぁーって。」
「拓巳。」
百香が口を開くよりも早く秀が拓巳を制した。
「なんだよ。そんな恐い顔して。別に悪いことじゃないだろ?」
秀は黙ったまま拓巳を睨みつける。
「秀は何が気に入らないわけ?モモちゃんと祐樹が付き合ってたこと?僕達に黙ってたから?それとも、週刊誌に撮られたこと?」
喰って掛かろうとする拓巳の肩を圭太が抑えて「落ち着けよ」と、なだめる。
「……全部だ。」
秀は吐き捨てるように言って、拓巳から視線を外した。
「全部だよ」
「なんでだよ!!二人とも悪いことしたわけじゃないじゃん!オレ、嬉しかったよ。……そりゃさ、何も言わないのは水臭いとは思うよ。でもさ、僕達、そういう仕事だろ!?」
「そういう仕事ってなんだよ!?」
「だって、祐樹もモモちゃんも、隠したくて隠してたわけないじゃん!!誰にも言えなかっただけじゃん!!」
誰にも言えなかっただけ……そうだ。そうだよね。
「拓巳、ありがと。もういいから。」
百香がそっと拓巳の背中を撫でる。
ごめんね。本当は全部嘘なの。
心の中だけで謝って、「ありがと。」ともう一度言う。
「じゃあ、何でダイチは知ってたんだよ?」
秀が、説明を求めるように百香を見る。

「それはね、」と、百香が言いかけるよりも早く、ドアが開いて大きな荷物を持った本間さんが入ってきた。
後ろにダイチと祐樹が続き、収録の為のスタッフが数名入ってくる。
スタッフはそのままスタジオに入っていった。
「何……この状況……?一体何なの?」
「ただのジャレ合いです。」
弘也が驚いた顔の本間さんから荷物を受け取って、片付けながら言う。
「そう。ならいいわ。」
そう言って本間さんは両手をパンパンと打ち鳴らした。
「揃ってるね。いきなり本題なんだけど。明後日の放送分、今から録り直すよ。」
「えっ!?」
「知ってる通りよ。別に説明する必要もないでしょ。」
本間さんはいつだって簡潔に事を進める。
いつもは冷たいと思うこともあるけど、今の百香にはそれが有り難かった。
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