Shooting☆Star
事務所に戻ると、百香は一人で仕事をしていた。
ちょうどいい。
そう思って、秀はドアを閉めるなり「あれ、何?」と百香に訊く。
そのたった一言で、百香には秀の怒りが伝わったらしい。
百香はいつもの笑みを見せなかった。
ただ、悲しい目をして、まっすぐに秀を見た。
「ごめん、後で説明するから...…」
百香はそれだけ言うと、スタジオの掃除をはじめた。
黙々と掃除をする百香の後ろ姿を、黙って眺める。
やっぱり、何かおかしい。
あの記事が本当なら、百香が何故あんな顔をするのかわからない。
百香は助けて欲しいのか……それとも、裏切ったのが百香なのか……?
とにかく、彼女が何かに巻き込まれていることだけは秀にもわかった。
悲しい目をして答えをはぐらかされて、それで納得出来るわけがなかった。


拓巳と圭太、弘也が一緒に戻ってくる。
「ただいまー!」
はしゃぎながら事務所に入ってきた拓巳に、雑巾を洗っていた百香は振り返らずに「おかえり」と答える。
拓巳はそのまま、まっすぐに百香の隣まで歩み寄り、その顔を覗き込む。
百香はもう悲しい目をしていなかった。代わりに、いつもの微笑みを浮かべている。
「モモちゃんって、あんな顔もするんだ?」
「えっ?……どんな顔?」
「いつものお母さんみたいな顔じゃなくてさ。写真見て、なんか、モモちゃんも、 ちゃーんと女の子なんだなぁーって。」
素直な拓巳は、単純に祐樹と百香が付き合っているのがわかったことが嬉しいらしい。
秀は誰もその写真に違和感を感じないことに苛々する。
「拓巳。」
「なんだよ。そんな恐い顔して。別に悪いことじゃないだろ?」
振り返った拓巳は、答えない秀に矢継ぎ早に言葉を浴びせる。
「秀は何が気に入らないわけ?モモちゃんと祐樹が付き合ってたこと?僕達に黙ってたから?それとも、週刊誌に撮られたこと?」
喰って掛かろうとする拓巳の肩を圭太が抑えて「落ち着けよ」と、なだめた。
「.…..全部だ。」
秀は吐き捨てるように言って、拓巳から視線を外した。
その記事が本当だとしたら、それは拓巳の言う通り全部だ。
違和感だらけのその記事を信じて、無邪気にはしゃぐ拓巳に対しても腹が立って仕方がない。
「全部だよ」
「なんでだよ!!二人とも悪いことしたわけじゃないじゃん!オレ、嬉しかったよ。......そりゃさ、何も言わないのは水臭いとは思うよ。でもさ、僕達、そういう仕事だろ!?」
「そういう仕事ってなんだよ!?」
仕事だったら、メンバーにすら隠すのか。
事情があったとしても、人生の半分以上を一緒に過ごした仲間を、騙すようなことが許されるのか……。
「だって、祐樹もモモちゃんも、隠したくて隠してたわけないじゃん!!誰にも言えなかっただけじゃん!!」
「拓巳、ありがと。もういいから。」
百香が拓巳の背中に縋るように声を掛ける。
拓巳の背中に隠れた百香は、一瞬だけ、悲しい目をした。
「じゃあ、何でダイチは知ってたんだよ?」
百香だって撮られていると、わかっていたんだろう?
自分でも、意地が悪いな……そう思いながら、秀は説明を求める。
百香は何を企んでいるのだろう……。
何で、そのタイミングでダブルデートなんてしたんだ。
何で、あんなに無防備な姿を晒したのだ。
隠すつもりがあるなら、隠し通せた筈だ。
何かに巻き込まれているなら……誰かに助けて欲しいのなら、そう言えばいい。
「それはね、」と、百香が口を開きかける。
同時にドアが開いて大きな荷物を持った本間さんが入ってきて、百香はまた黙ってしまった。

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