Shooting☆Star
ドアを開けると、通用口付近に立っていた女の子達が一斉に振り返る。
彼女達は顔を寄せ合うようにして耳打ちし合う。
百香はしゃがみ込んだままの女の子に駆け寄り、声を掛けた。
「大丈夫?」
顔を上げたその子は、青ざめた肌色のまま、一瞬、驚いた表情を見せる。
見慣れない子だな……と思う。
「……立てそう?立てるなら、あそこまで移動しましょう。」
百香は地面に膝をついて、同じ目線の高さでその顔を覗き込み、建物の庇の下を指差す。
膝までの柵に囲われた搬入口と関係者用の通用口の間には、陽の当たらない場所にベンチのように使える高さのある階段が数段だけある。
「……はい。」
小さな声で頷く彼女を確認し、
「ちょっと失礼するわね。」
百香はそう言って、彼女の鞄を左手に持ち、右手で抱き抱えるように肩を貸す。
歩幅を合わせてゆっくり歩く百香に「すみません……」と、彼女が言う。
百香は黙って柵の間を通り抜け、彼女を階段に座らせると、隣に荷物を置いてその反対側に並んで座った。
入り口付近に居た女の子達は、相変わらずこちらをチラチラ見たり、熱心に出入り口を見つめたりと忙しい。
百香は自分の鞄から小さなペットボトルを取り出して隣に座った彼女に渡す。
「よかったら、飲んで。中に入れてあげることは出来ないけど、救護のスタッフを呼んだから。それまで私がここに居るわ。」
ミネラルウオーターの小さなボトルを受け取る彼女に、鞄から出した日傘を差しかける。
「冷えてなくてごめんね。封は開けてないから。」
日傘は、通用口を取り巻く女の子達からの視線を遮る為だ。
キャップを開けて、その水を一口飲んだ彼女は、ペットボトルを見つめていた。
百香は黙ってその横顔をそっと観察する。
さっきよりは少し、血色が良い。貧血だろうか?
大丈夫? 百香が口を開くよりも早く、彼女は口を開いた。
「あの、」
こちらを振り返り、何か言葉を選ぶようにして、「あの、」と繰り返す。
「あの、助けていただいてありがとうございます…………祐樹くんの……マネージャーさんですよね?」
「そうよ。百瀬です。」
「あ、私、ミズホです。」
それが名前なのか苗字なのかはわからないが、彼女は小さな声で名乗った。
今、一瞬「祐樹くんの彼女」って言おうとしたよね……マネージャーじゃなくて。
百香はなんだか複雑な気持ちになる。
< 31 / 77 >

この作品をシェア

pagetop