Shooting☆Star
楽屋に戻ると、宮本さんと甲斐さんが揃って挨拶にきた。
百香をカメラの前に引きずり出したことを詫びて頭を下げる二人に「とんでもない、逆にご心配をお掛けしました。今後とも、うちのメンバーをよろしくお願いします」と、こちらも頭を下げる。
甲斐さんも宮本さんも、S☆Sがデビュー当時からとてもよくしてくれていた。
百香は当時を直接には知らないが、メンバーがまだ未成年だった頃は番組で一緒になると「飲みに行くような打ち上げには連れて行けないから…」と、それぞれに小遣いをくれたなんて話も聞いている。
いつ会っても、心から楽しそうにS☆Sに構う二人に百香はいつも有り難く思う。
甲斐さんが穏やかに笑って「モモちゃん、相手が祐樹くんで良かったよ。祐樹くんをよろしくね。」と、百香の肩を叩く。
「祐樹、モモちゃんのこと絶対、泣かすんじゃねえぞ。」と宮本さんが通り掛かった祐樹に絡みに行く。
「でも、よく、あの清香さんが許したね……。」
甲斐さんは、子供のようにじゃれて暴れる祐樹と宮本さんを眺めて、目を細める。
「清香さん、モモちゃんのことは手放さないと思ってたんだけど。」
「私には、母の考えていることはよく分かりませんから……。」
百香も祐樹と宮本さんを眺める。
「モモちゃん、お父さんに似てきたね。」
唐突にそう言われて、百香は甲斐さんを振り返った。
甲斐さんは百香の父や母と昔馴染みである。
百香の父を百瀬くん、母を清香さんと呼び、昔話をする甲斐さんの表情はいつも優しい。
若い頃はよく一緒に出掛けたもんだよ……と、何度か話に聞いたくらいで、百香はその頃のことは知らない。
「そうですかね……?」
「うん。似てる。百瀬くん、そういう、菩薩みたいな表情よくしてたよ。清香さんのこと“よくわからない”って言うところとか。」
菩薩みたいな表情。
幼い頃の父の顔を思い出す。
思わず、ふふふと笑って、小さな声で「あんまり、外で両親の話、しないでください。」と、甲斐さんに念を押す。


明日は午前中は仕事もないし、この収録が終わったら、ダイチの部屋に二人で帰る予定だった。
しかし、「久しぶりにみんなで打ち上げいこうよ、お祝いも兼ねて。」という甲斐さんの発案で、このまま全員で飲みに行こうという流れになる。
百香は隠れて小さく溜息をついた。
ダイチとはツアー中もその後も、二人の時間をあまり取れていない。
そんな様子を見て祐樹は頻繁に、二人を誘って外に出る事を提案した。
二人で過ごすことが出来ないなら、せめて三人で過ごそうと。
最初はその変なデートを面白がっていたダイチも、次第に「百香とユウで行ってくれば?」と、釣れない返事を返すようになった。
今日くらいは、二人で過ごしたかったのになぁ……。
そう思うが、スタッフもS☆Sの誰にも、甲斐さんの誘いを断ることは出来ない。
ダイチは渋い顔をしたが、半ば主役である百香にも当然、拒否権はなかった。
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