Shooting☆Star
昨晩、事務所の外で締め出された百香は、困り果てて弘也に電話を掛けた。
ダイチも祐樹も、最年長の弘也の言う事は大人しく聞く。
何かトラブルがあった時、まとまらない意見を纏めるのはいつも弘也だった。
「ヒロ、ごめん。」
電話に出るなり謝る百香に理由も聞かず「すぐ行くよ。」と、駆けつけてくれた。
持参した合鍵を使って扉を開けようとして、弘也は百香を振り返って訊く。
弘也の耳に、扉の中から「なあ、」と、祐樹がダイチを呼ぶ声が小さく漏れ聞こえる。
「ところでモモ、これは、ぼくが聞いても良い話なの?」
「ごめん、あんまり聞かないで欲しい話。」
百香はそれが身勝手な願いだとは思ったが、口にせずにはいられなかった。
「もしよければ、忘れて欲しい。」
弘也は「オッケー」と小さく頷いて、ドアを開ける。
並んで転がる二人に「お前ら、いい加減にしろよ。」と、声を掛けて入っていった。

夜間に合鍵を使用した場合、その記録は本社への報告が必要だ。
鍵を開けた弘也は「理由は知らない」と言って、ダイチと祐樹が揉めていたこと、祐樹が怪我をしていたこと、百香が締め出されていたことを手短かに社長に報告した。
騒動の主を並べて互いの言い分を聞いた後で、社長は言う。
「そりゃ、けしかけた私も悪いけど。貴方達、もう充分に大人なんだから、もう少しやり方ってもんがあるでしょう?」
数枚の写真と嘘の情報を流して、ほとぼりが冷め、世間が忘れるのを待てばよかった。
それだけの筈だった。
彼女にとって誤算だったのは、祐樹が百香に好意を抱いていたこと、そして、それを自分が今日まで知らなかったということだ。
祐樹の右手に巻かれた包帯を眺めて、この子達に掴み合いを起こす程の若さがまだあったのか……と、思う。
日々、“事務所”を纏める百香が、メンバーから信頼以上の感情を得るのは、不思議ではない。
本間というサポートは居るが、百香は殆どの仕事をひとりでこなしている。
S☆Sのメンバーとマネージャーの信頼関係は、事務所一……いや、おそらく業界一だろう。
芸能事務所社長としての自惚れや贔屓なんかではなく、そう思う。
百香が居なかったら、このグループはここまで大きくならなかった。
少なくとも、ダイチはきっとアイドルとしての道を踏み外していたし、弘也は若いうちに事務所をやめていただろう。
扱いの難しい拓巳も秀も百香には一目置いている。
彼女は、社長として、そんな百香の仕事振りを誇らしくも思う。
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