Shooting☆Star

☆2話☆

彼女の妊娠がわかった時、弘也は真っ先に百香に相談をした。
正確には、消去法で残った相談出来る相手が百香だけだったのだが。
後にあれは正しい選択だったな、と思う。

「モモ、どうしよう。茉莉子、妊娠してるかもしれない…」
夜中の2時過ぎにも関わらず、百香は電話に出た。
動揺する弘也に「検査は?」と訊く。
「市販のやつ。…病院には行ってない、行けない…」
そう答えると、百香は「そう。」と言って黙る。
しばらく紙をめくるような音が聞こえて、
「木曜日の午後、マリちゃんは予定ある?私、付き添うから婦人科に行こう。今ここでどうこう言っても、すぐにはどうにもならないことだし。…ごめん、ヒロ。不安なのわかるし、誰かに相談したいのもわかる…でも、冷たいこと言うかもだけど、今日はもう少し休ませて。」
休ませて、という百香の声は酷く疲れているようだった。
そういえば、今日は遅くまで圭太達の収録に付き合っていたんだっけ。
「拓巳が朝、5時から収録なの。」
寝る時間、殆どないんだな……申し訳ない、と弘也は思う。
確かに、この夜中に今すぐ出来ることは何もない。
百香は冷静で、弘也も落ち着くことが出来た。それが、ゆったりと静かに話す百香の声の所為なのか、誰かに話した安心感なのか、弘也にも分からなかった。
「わかった。モモ、ごめん、ありがとう。」
「ねえ。これ、私以外に誰かに話した?」
「まだ。誰にも。」
「わかった。明日の午後の移動、私が担当するからその時に話そう。それまで、誰にも黙ってて。それと……なるべく、彼女の側にいてあげて。」
通話を切った弘也は、泣き疲れて眠る彼女を眺める。
彼女の茉莉子とはファッション誌の撮影で知り合い、付き合って1年と少し。
モデルから女優へと仕事の幅を広げて活動する茉莉子は、まだ19歳だ。
芸能活動を反対されて半ば勘当されたような状況で家を飛び出してきた彼女は、実家に戻ることを拒否している。
すぐにでも籍を入れたい気持ちもあったが、両親の同意が得られない以上、今すぐに結婚するという選択肢は選べない。
それでも、茉莉子は弘也の子供を産みたいと、そう言った。
出来ることなら産んで欲しいと、弘也も思う。
事務所に反対されたら、仕事を辞めよう。
生活は厳しくなるだろうけど、失うよりはずっといい。そう思って、そっと茉莉子の髪を撫でる。
< 54 / 77 >

この作品をシェア

pagetop