Shooting☆Star
星を掴む

☆1話☆

「ごめんね、ユウくん。いつもありがとう。」
そう言って百香は、祐樹を見上げた。
祐樹は百香が車から降ろした荷物を抱えて、振り返りもせずに階段を登っていく。
ニットの上から羽織った薄いコートの、その背中から裾にかけて大きなシワが寄っている。祐樹は現場を出てからずっと様子がおかしい。車に乗る時もコートを着たままだったし、ふたりきりの車内でも、時折スマートフォンをいじる以外、窓の外を眺めて黙ったままだった。
「べつに。どっちにしろ、こっちに車を駐めてるから。戻るつもりだったし。」
返答はないだろうと思って声を掛けた百香は、不機嫌そうな祐樹の声に眉をひそめた。
祐樹は、振り返りもせずに階段を上りきり、百香が鍵を開けるのを待っている。
予定よりも遅くまで収録が伸びてしまい、ひとりで事務所に戻るという百香に、手伝うよと、声を掛けたのは祐樹の方からだった。
気に入らないことがあったなら、祐樹は不機嫌な理由を言葉にするだろう。
何か、悩みでもあるのだろうか?そう思って、鍵を取り出しながら、横目で祐樹に視線を向けて、百香は思わず声を上げた。
「ん?なに?」
祐樹は百香をじっと見ていた。思ったよりもずっと近い距離で目が合って、至近距離で見つめ合うような形になる。
「べつに……」
祐樹はすぐに視線をそらすと、荷物を抱え直した。
「あ、ごめん、寒いよね。すぐ開けるね。」
百香は慌てて事務所のドアに鍵を差し込み、重たい扉を開ける。
先に入った祐樹に続いて事務所に入ると、事務所の中は思ったよりも明るかった。
窓から差し込む街灯の光に照らされた祐樹の後ろ姿。
壁のスイッチを押して照明をつける。
荷物を棚の上に置いた祐樹は、カレンダーを眺めていた。
12月に入ればクリスマス、すぐに年末・年始の番組の収録だ。生放送も多く、毎年、特にこの時期は忙しい。
冬のいくつかの行事が同時に進行し、更に、春先のCMや雑誌の撮影も始まっていて、季節の流れも時間の流れも曖昧になる。
祐樹の隣に立って、壁に貼られたカレンダーを眺めて、もうすぐ今年も終わるんだな……と、思う。
11月の最終週。
3枚並んだカレンダーの先頭は既に12月のものに掛け替えられて、1月2月と続く。そこには、百香の手によって、メンバーと事務所全体の大まかな予定が書き込まれている。
細かな予定は、スマートフォンやタブレットなどの携帯端末を使って、共有のアプリからメンバーそれぞれが書き込み・確認できるようにしているが、昔からの習慣はなかなか切り捨てることができなかった。
思えば、今までで一番辛い年だったような気がする。
百香の元彼であるダイチのスキャンダルに始まり、祐樹と百香も週刊誌に取り上げられ、半年近くそれに振り回された。
結局、ダイチとはすれ違いが原因で別れた。
だけど、久々に外で過ごしたオフの日は楽しかったし、それまでの時間も無駄では無いと思えた。
なんだか慌ただしくて、あっという間に過ぎた日々だが、百香にとっては堪えるものも多い長い一年だった。
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