Shooting☆Star
百香と祐樹は事務所公認の恋人同士……ということになっている。表向きは。
ダイチとの関係を隠す為に始まった嘘は、今はもう意味を成さない。
偽物の恋人ごっこは止め時を見失って、今もまだ続いている。
祐樹にはたくさん助けられたな……。
そう思って、傍らで缶コーヒーに口を付ける祐樹を見上げる。
薄いコートだけでは寒さを凌ぎきれず、カイロ代わりに買った温かい缶コーヒー。
「それ、甘すぎない?」
「うん、凄い甘い」
「甘くないココアが飲みたいな……」
百香はそう言って、時計を見る。
23:30だった。
あと30分で11月の最終日が始まる。
11月30日は、祐樹の誕生日だ。
「ユウくん、ちょっとだけ早いけど。お誕生日、おめでとう。」
デスクの引き出しを開け、これ、と言って百香が小さな包みを取り出す。
その包みを受け取って、祐樹は少し驚いた顔をした。
「ありがとう、開けていい?」と訊く。
「もちろん。」
百香は微笑んで、包み紙を解きにかかる祐樹の、シールを丁寧に剥がす指先を眺める。普段は百香が一人で入らないような、祐樹の顔馴染みのショップで小物を選んだ。

アクセサリーなどの小物類から服や靴・バッグなどのファッションもの、ちょっとした家具や雑貨まで、店主がこだわって揃えた商品が並ぶその店は、黒基調の店内に並ぶ金属製のディスプレイ棚がいかにも男性的で、百香は落ち着かない気持ちになる。
一人で買い物に来た百香に「モモさん、今日は一人ですか?珍しいっすね。」と、声を掛けてきた店員は、名前は思い出せないけど、プライベートでも何度か顔を見た記憶があった。
黒い髪を短く刈り上げて耳にピアスをたくさん着けた彼は、祐樹の友人のひとりだ。
「もうすぐ誕生日なんです。ユウくんの。」そう言った百香に、「良いっすね。ラブラブじゃないっすか!」と、嬉しそうに笑い、あれこれと助言してくれた。その店員の勧めもあり、プレゼントは祐樹が好きなブランドの本革製のスマートフォンケースに決めた。
そのブランドにしては少し大人っぽい、シンプルで滑らかな革の手帳型のカバー。
その表紙の内側の目立たない場所に、祐樹のイニシャルと誕生日を刻印してもらう。
「祐樹さん、喜びますよ。あ、安心してください。俺、口は堅い方なんで。」
刻印を入れながら、その店員は「お二人とも、仲良いですよね。憧れっす。」と、作業中の手元から視線を外さずに笑っていた。
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