Shooting☆Star
なんだ。現場を出てからずっと様子がおかしかったのは、こういうことか。
機嫌が悪かったわけじゃなかったのね。
これってやっぱりプロポーズなのかな……何でここで?しかも、何で疑問系なの?
驚きと、疑問とで、百香は笑いが止まらなくなった。
「やっぱ、ダメか?」
不安そうに百香から視線を外した祐樹に、「ちがうの」と、言う。
祐樹は緊張していたのだろう。百香の運転する車の中で、ひたすら黙っていた祐樹を思い出すとおかしくて、笑っているうちに、なんだか気が抜けた。
気が抜けて、相手を特別だと思っていたのは祐樹だけじゃなかったと、気付く。
そうだ。自分も、祐樹のことを特別に思っている。
だからこそ、プレゼントにいつも身に付けられるものを選んだのだ。
「ごめん、違うの、ダメなんじゃなくて。」
コートの袖口で目尻の涙を拭って、呼吸を整えて、祐樹に向き直る。
いつも祐樹がそうするように、彼の両肩に手を伸ばしてそっと掴むみたいに添える。
それから、百香はゆっくり瞬きをすると、祐樹の顔を覗き込むように視線を合わせた。
「ユウくん、私ね、ユウくんにちゃんと告白されてないよ。」
「うん。してなかったね。」
そう、いつかこの場所で交わした、あれは取り引きだ。
互いの秘密を一つづつ吐き出して、聞かなかったことにする、取り引きだった。
いつもの優しい口調のまま、百香の目は真剣だ。
「デートはたくさんしたけど、付き合ってるわけじゃないよね。」
「うん。」
でも、それは、全部偽物だ。本当はそこにはダイチも居るはずだった。
「これは、何?」
百香は祐樹の肩から手を離すと、机の上のペアリングに視線を移す。
「……御守り、みたいなものかな。内側に誕生石を入れるのは“星を掴む”って意味なんだって。オレ、モモには幸せでいて欲しいし、これからもずっと、モモのことを守りたい。」
今度は祐樹が百香の肩に手を載せて、その目をじっと見つめる。解説が聞きたい訳じゃなかったんだけど……。
そう思うが、彼の気持ちは充分に伝わってくる。
祐樹は祐樹なりに考えたことがたくさんあるのだろう。
“彼女になって”じゃなくて、“奥さんになって”か……。
「偽物じゃなくて、誰かの代わりでもなくて、モモの一番になりたい。ただ一緒にいるだけならこのままでいいだろ?でも、それじゃオレがダメなんだ。他の誰かじゃなくて、オレが、モモを幸せにしたい。」
祐樹の目はまっすぐだ。その言葉に嘘はない。
百香にとって祐樹は、友人でも恋人でも家族でもない何かだ。
友人よりも親しく、家族よりも側にいて、恋人の振りをして寄り添う、仕事上のパートナーのひとりだった。今までは。
「だから、モモの人生をオレに半分ください。……結婚、しよう。」
……結婚、しよう。念押しするみたいに、そう言った祐樹の指先は少し震えていた。
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