私はマリだけどなにか?
「店長、水晶の在庫少なくなって来ましたよ」
シゲミが入社してから水晶とタロットカードは以前の3倍売れていた。今では、そのふたつを求める客が増えた。中には小樽に来られない友達の分まで購入する旅行客も多くいた。
小樽のショップTGの水晶とタロットが中高生女子の間で人気があった。特にシゲミという店員が触れた水晶はご利益があると噂された。
「ごめんください」
「いらっしゃいませ」テ~ジが接客した。
「 私、ショッピング北海道、記者の小黒タカコと申します。実はこちらの店員さんの触れた水晶に、なにか不思議なパワーが秘められていると聞いて取材に来ました。どなたか責任者の方にお話しを聞きたいのですが?」
「僕が店主でオーナーの村井と申します。そんな話し聞いたことありませんけど?」内心マズイのが来たと思った。
「えっ?今、若い子の間では噂ですよ。小樽のパワースポットと言ってる人もいるんですよ」
「いや、僕は初めて聞きましたけど?」
「こちらにシゲミさんという従業員の方おられますか?」
「はい、彼女ですけど」テ~ジはシゲミを指さした。
「オーナーさん、彼女にお話ししてもよろしいですか?」
「彼女に聞かないと解りませんし、店内は狭いので他のお客さんに迷惑かと…」
「じゃあ、スタッフは表で待ってます。私が彼女に取材の許可を取ってもかまいませんか?」
「あっ、それでしたらどうぞ」断る理由が無くなった。
心の中では「シゲミちゃん、拒否しろ」と念じていた。
「あのう、シゲミさん。取材の件で、お時間宜しいでしょうか?店長さんの許可はもらってますけど…」
「店長はなんて?」
「シゲミさんが許可したら、かまわないと言われました」
「そうですか。じゃあ、手短にどうぞ」
「では、表で店をバックに写真を一枚撮って、それから簡単なインタビューお願いします」
「あいつインタビュー受けやがった・・変なこと言うなよ!」テ~ジは心の中で祈った。
「では質問しますから答えて下さい」
「どうぞ」
「この店は中高生の間で有名になってることはご存じですか?」
「いいえ、知りません」
「小樽のスピリチュアルショップ・TGのシゲミさんは、お客様の顔とバイブレーションを視てその客に相応しい水晶や小物を選んでくれるって、そして選んでくれた水晶に特別のパワーがあるとう評判ですけど…それについてどう思われますか?」
「そうですか、そんな噂が立ってるんですか?知りませんでした。私がやってることは宝石や服を、お客様にお奨めするのと同じですけど。あなたは宝石や服を買いに行きますか?」
「ハイ行きますけど・・・?」
「似たような指輪があった時、どれにしようかと悩んでいるところに、それを察知した店員さんが来て『こちらの方がお似合いですよ…』って話しかけてきたら?私のやってることは、ただそれだけのことです。あとは、買った人が勝手に解釈してるだけだと思います。そんな効果のある石があったら私が買います。そして高く売りつけますよ。そんな中高生の噂で、小樽までわざわざ取材しにご苦労さまでした。以上」
シゲミは何事もなかったように店に入っていった。小黒タカコが視線を落として言った。
「今日は取材になりませんね、撤収しましょう。彼女の云うとおりよね。噂に惑わされるとこだった。まったく…撤収、撤収」
難を逃れたテ~ジは、シゲミは本当に素晴らしいと思った。敵に回したら怖いタイプとは彼女のこと……
石の売り場ではシゲミが「オネェちゃん、この石の効果知ってる?普通の水晶と少し違うのよ!私が選んであげる。今も札幌の雑誌社が噂を聞きつけ、取材に来たとこなのよ」
シゲミの神経は図太かった。
THE END