私はマリだけどなにか?
「大丈夫、すぐ馴れるよ。強い人間は格好じゃないから、中身だよ中身…」

そこに先輩店員のシゲミが割り込んできた。

「あれ?どうしたのあんた達。気の抜けたサイダーみたいだね。記念に水晶買わない?私が選んであげるよ、どれ…」

「いえ、結構です。この前買ったのがありますから」

「うん知ってるよ、でも今回は数倍パワーアップした石が入荷したんだ。こんなこと年に2回ぐらいしか無いんだよ」

マリが「シゲミさん、こいつらをからかうのやめて下さい」

「そっかい、予備にもうひとつどうかなと思ったんだけどねぇ…」

店内では観光客そっちのけで5人は盛り上がっていた。


 月曜日の全校朝礼が終り教室に戻る途中花岡が声をかけてきた。

「マリ、最近部活に顔出さないけどどうかしたか?」

「うん、パートの仕事が面白くって、そっちに行ってるから忙しいの」

「そっか…で、なんのパートやってるんだ?」

「キャバクラのネエちゃんだけど」

「うそっ…マリ、お前そんなことやってるのか?この学校は夜の接客業は禁止だべ。黙っててやるからすぐ辞めろ。知れたら即、停学か退学だぞ。なんて大胆なこと…あ~頭痛くなる。 で、その店の名前はなんていうの?安いの?高いの?いい娘いる?」

「ばっかじゃねえの…おい、ジッタ、嘘に決まってるだろ…なんで私がホステスするのさ?それに店の名前や値段を聞いてどうする気なんだ?このエロハゲ」

「お前ね、いくらなんでもエロハゲは無いだろう…それ言い
過ぎじゃねえのか?先生心配してるのに」

「言い過ぎじゃないし。だって本当だもん」

「先生泣きたくなるよ。月曜の朝からこれだ」

「スピリチュアルショップTGっていうところで店員の仕事してるの、そうだ!先生も一度顔出さない?水晶買ってよ。そこに凄い美人の双子が交代で働いてるんだ。シゲミとアヤミっていう人なんだけど、すっごく勉強になるんだ。修学旅行生からファンレターも届くんだよ。ジッタも店においでよ」

「なんだ、先生をビックリさせるなよ、そのうち暇になったら行くよ。たまには部活にも顔出せよ、じゃあな」

「は~~い、わかりました」

その日の夕方だった。店に場違いのオッサンが入ってきた。

「いらっしゃいませ~~」先輩シゲミが満面の笑みを浮かべていた。

「あの~こちらに山田マリという店員さんおられますか?」

「はい、おりますけど…今、休憩に入ってますが呼びますか?」

「いえ、店内を眺めて待ってます。あっ、申し遅れました。
僕はマリの学校の担任をしてます」

話の途中でシゲミが「鼻をかじった先生でしょ?マリちゃんから聞いてます。私も一度お会いしたかったです」

「あっ、そうですか…もしかしてあなたはシゲミさんですか?」ジッタの目尻がだらしなく下がっていた。

「はい、シゲミで~す。はじめまして・・・」

「マリがお世話になっております。どんどん世間勉強させてあげて下さい。私からもお願いいたします」

そこに例の3人組が入ってきた。

「シゲミさんお疲れ様っす!」

「おう、来たか、マリちゃん休憩中なんだ。でももう戻る頃だけど」

「は~~い、待ってま~す」

花岡は直感した「これが噂の3人組だな」

そこにマリが「ただいま戻りました」

「あれ・・・ジッタどうしたの?来てくれたの?うれし~い。なんか買ってけよ」

「うん、この辺に用事あって来たからさ、ついでに寄ったよ」

「嘘だろ、私の顔を見に来たんだろ。みんな、こちらが鼻をかじった先生。ハゲで独身、彼女いない歴?何年さ?因みに私を嫁にするのが先生の夢なの」

「いない歴約10年、お前なに言わせるんだ?バカ」

全員、吹き出した。

「まっ、こんな先生です。で、こっちが友達の3人集。先生、こいつら、私を倉庫の陰で喝あげしたんだ。当然未遂だけど、だから私、一発殴ってやったんだ。それからの付き合い。どう?見てくれも普通でしょ…先生の言うとおり髪もちゃんと黒く染めたんだから。そしてこの綺麗なお姉さんが…?ど・どっちだっけ?」

「マリ、お前ね・ぶっ飛ばすよ!」

「そうです、『ぶっ飛ばすよ』はシゲミ姉さん。因みに『ぶん殴るよ』がアヤミ姉さんです。以上」

また、他の客そっちのけで6人は盛り上がっていた。そこに店主のテイジが戻ってきた。

「君達、駄目だよ接客してくれないと…」

と、次の瞬間花岡の顔をじっと見ていたテイジが「もしかして鼻をカジッタか???」

「えっ?もしかしてテ・イ・ジ?」

「おう、ジッタなの?久しぶり!これ俺の店なんだ。ジッタ今、何やってるの?なんでここに?」

「うん、教え子のマリがここでパートしてるって聞いたから様子うかがいに寄ったよ。いや~懐かしいな、元気だった?」

二人は同じ高校の同級生。

こうして閉店後も7人の話しは盛り上がり、ジッタは酒とジュースを買い、テイジはつまみを買い、シゲミの双子の姉アヤミも呼んで盛大に盛り上がった。

END
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