私はマリだけどなにか?
5「私はマリ、東京に来たけどなにか?」

 花岡が「マリ、今日の放課後職員室に来てくれるか?」

「先生…私なんかした?」  

「来てから話す。その時に」いつになく神妙な声だった。

「な~~~に・・・偉そうに、もったいぶって…」

「じゃあなっ!」

放課後の職員室。花岡の横でマリが「先生、話しってなんですか?」

「マリ、何ですかじゃない。お前このままだと卒業難しくなるぞ。他の先生に話し聞いたけど国語・数学・英語・物理の出席単位が全然足らないって言ってるぞ。どういう事なんだ?」

「そっすか?」

「お前この教科の時間いつもどこに行ってるんだ?」いつになく花岡の語気は強かった。

「・・・・部」

「なに聞こえない」

「書道部ですけど…」

「なんで?」

「昼寝…」

「えっ?もう一度大きい声で」

「はい、書道部で昼寝してました」

職員室内に先生達のくすくす笑い声が聞こえた。

「なんで?」花岡は語気を強めて言った。

「はい、昼飯を食うとまぶたが閉まるのであります。もう絶対にしませんマリは誓います以上。と言うことでもう帰っていいですか?花岡先生」

「なんでそういう時だけ花岡先生って敬語使うんだ。いつもはジッタって呼び捨てなのに・・・」

「まつ、固いことヌキに、ね!マリも反省してることだし、今日のところはこれで許してやってください…」

「分かった、でもいいか英語の単位はあと2時間欠席すると留年決定だ。熱があっても学校に来い。分かったか…以上」

「オス。分かりました。マリ頑張ります。です」

「ですが多い。戻っていい」

「はい、失礼します。山田麻理枝帰ります」

マリが去ったあと花岡は「本当に分かってるのかなぁ・・あいつ」小さくぼやいた。


 翌年の春

体育館には正装した先生達と父母が並んでいた。

「先生、在校生の皆さん。今日まで大変お世話になりました。我々卒業生から皆さんに歌を送ります。心込めて歌います。どうぞ聞いてやってください。

さらば友よ 旅立ちのとき 変わらないその想いを今…
さくら、お聞きください。 卒業生起立!」

ぼくらはきっと待ってる  君とまた会える日々を

歌いながら、むせび泣く泣く卒業生。卒業生はどの顔も神妙だった。が、ひとりだけ場の雰囲気を無視し、終始笑顔の卒業生がいた。そう、マリだった。

先生側の席では花岡がマリに小さな手振りで「マリ、お前も泣け…」とサインを送っていた。

マリは「なんで?バ~カ」と手振りで返し、視線をそらした。

卒業式が終了し教室に戻った。花岡は担任として最後の挨拶をした。「みなさん卒業おめでとうございます。無事卒業式を終えることが出来ました。本当にこれで最後です。僕もみんなを受け持って大変勉強になりました。
2年間ありがとうございました…」

花岡の挨拶中マリは終始窓から外を眺めていた。

「マリ聞いてるか?」

「……」マリには花岡の話が耳に入ってない。

「おい!マリ…」

マリは後ろの席の榊原君絵に肩を叩かれた。

「ハイなんですか?」

「マリお前ね…最後までその調子だ…ちゃんと社会に出てやっていけるのか?先生マリのことが一番心配です」

「先生、こっちも私が卒業したら先生が下級生から、舐められて心労から頭の毛が枯れるんじゃないかととっても心配で~す。毛が枯れたらますます結婚出来なくなるよ。みんな先生の髪の毛がある状態をしっかり目に焼き付けておきなね。何年か後のクラス会までその晩秋の頭とお別れ~お疲れ様でした。以上解散!」

最終的にマリのひと声でクラス全員笑いながら解散した。

マリは高校を卒業し進学せず社会人への道を選んだ。目的達成のためのお金を貯めるためパートを掛け持ちしていた。
週3日は今まで通りTEIZIの店で働き、週3日はガラス加工のショップで店員として働くことになった。
毎週土曜の夜は札幌の狸小路の店が閉店後、マリの書いた書を路上販売する日が続いた。

ある時TEIZIの店長が「マリちゃんそんなに働いてどうするの?」

「今はとりあえずお金を貯めます。そして旅に出たいんです」

「旅に?なんで?」

「東京を見てきたいの」

「なんで?」

「色んな人に会いたいの」

「小樽や札幌じゃ駄目なわけ?」

「なんか、ここや札幌はこぢんまりしてそうで、人に会うならやっぱ東京と思ってます。色んな人がいると思うんです。そういう人と触れあってみたいから」

「なんか、アヤミちゃんみたいだね。で、東京でどうやって暮らすの?」

「安いアパート借りて自炊しながら、どこか狸小路みたいなアーケードで書を販売しながら暮らすの」

「書で生計出来るの?」

「たぶん出来ないと思います。だから今頑張って稼いで、
二年は遊んで暮らせるぐらい貯めようと思ってます。だから腕ならしのつもりで狸小路で土曜日に店広げてます」

「でも狸小路の閉店後からだと遅くなるよ、小樽まで帰り大丈夫なの?」

「土曜だけ高校時代の友達のアパートに世話になって、日曜の朝一で小樽に帰ってパートに行きます」

「そっかぁ、マリちゃん感心だね…少ないけど時給少し上げておくからね。くれぐれもあの二人には内緒にね…」

「店長ありがとうございます」

「いや、ジッタからも頼まれてるからね、これくらいなんくるない(大丈夫)さ~~」

「あんたはウチナンチュ(沖縄人)か?」

そして二年後マリ旅立ちの時。

 小樽の居酒屋に店長、ジッタ、シゲミ、アヤミ、例の三人娘そして今日の主役マリ。8人が久々の再会をした。

店長が「今日はマリちゃんの送別会。思えば3年前店に面接に来た時は・・・$#%#’Y%('%&」

シゲミが「店長、無駄に長いけど…」

「あっ、そうだね、とにかく、今日は盛り上がりましょう。マリちゃんの門出を祝しカンパ~イ」

「カンパ~イ」

宴もたけなわ、ジッタが「マリ、身体に気を配れよ。とくに水には気をつけるんだぞ…」

「ジッタ、年寄り臭いこと言わないの。今はおいしい水ならいくらでも売ってるし、コンビニ行ったらなんでも手に入るんだから」

シゲミが「ジッタ相変らずマリに言われっぱなしだね。どっちが先生なんだか…」

全員大笑い。

三人組が「マリ姉さん、東京に行ったら私達も遊びに行くから泊めてね。必ずね! そしてマルキューや竹下通りだとかアキバやブクロや巣鴨だとかスカイツリーも行くんだ」

マリが「あのねっ、そういうのをオノボリさんって言うのね、めんどくせっ! ひと昔前だとカッペともいうの。ホッペに赤い頬紅書いたら完璧に昭和だよ。あんたらに似合いそう…」

アヤミが「ところでどの辺りに住むのさ?」

「今のところ井の頭線の三鷹台から吉祥寺の辺りかなって考えてます」

「閑静な住宅地だね、でもなんで?」

「私、以前から注目してる人が吉祥寺のサンロードで占師みたいことやってるの。だからその人のそばで書の路上販売考えてます。いろいろ吸収したいので」

「それって、もしかしてもとホームレスの花子?」

「えっ!アヤミ姉さん花子さんを知ってるの?どうして?」マリは声高にきいた。

「私は直接会ったことないけど路上販売の中間から聞いたことあるよ」

ジッタが「どんな人なの?その花子って・・・」

アヤミが「なんでも、学生時代は『なんで?の花子とか哲学者花子』って云われてて、とにかく好奇心旺盛で何でも質問したらしいの。東洋学校出てから横浜でホームレスやってて、そこで知り合った何とかっていう爺さんに師事したらしいの。 

で、ある時その爺さんが若者達に絡まれて殺されたらしいのね、それがショックで段ボール小屋に彼女は何日も籠もり続けてたらしいの。そんなある時、一羽の海鳥が魚を捕獲しようと海に飛び込んだ光景を見た。刹那。悟りを開いたっていうの。
その後、家に戻って近くにある吉祥寺のサンロードで会話士と称し、客のガイドからの伝言を伝え相談に乗るという商売をはじめたらしい。
それが評判を呼んで、今では多い時には数十名が平日九時過ぎから訪れるらしいの。私が聞いた花子の情報はそのくらいかな」

ジッタが「それで井の頭線に住もうとしてるんだ…」

店長が「マリちゃんもスピリチュアルに興味あるの?」

「うん、最初はそうでもなかったんだけど卒業間近になって、偶然ネットで花子さんを知ってから、そっちの方に興味がわいたの」

店長が「なんだ、スピリチュアルのことなら僕が専門家なんだから、質問してくれたらよかったのに」

シゲミが「店長はやめときな。インチキだから」

「またシゲミちゃんそんなこと言うもんな! アヤミちゃんどう思う?」

「シゲミのいうとおりインチキだけどなにか?」

相変わらずこのメンバーは笑いが絶えない。

最後にマ「みなさん、今日はどうもありがとうございました。どうなるか分からないけどマリ頑張ります」
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