私はマリだけどなにか?
3日後、マリは井の頭に安いアパートを借り吉祥寺のサンロードを歩いていた。
サンロードのストリートミュージシャンに「すみませんこの辺に花子さんという方が夜に出店してるって聞いて来たんですけど知りませんか?」
「あ~~。花さんならそこの銀行前だけど、彼女は不定期だから今日現われるかどうか分からないよ。あれを見てみなよ、若いお姉ちゃんが行儀よく並んでるだろ、花さんに話しがあるならあの後ろに並ぶんだ。でも、来るかどうか分からないから気長にね。暇だから僕の歌でも聴きながら待ってなよ」
そう言い終えると若者はギター片手に歌い始めた。
並び始めて1時間が経過した。小さい椅子と折りたたみの小さなテーブルを持った女性が現われた。並んでいる人の中に顔見知りがいて挨拶を交わしていた。女性は支度を終え、先頭から手招きして椅子に座らせ話し始めた。花子が来た辺りから先程のミュージシャンは気を遣ってからか声のトーンを落とし、歌のジャンルもバラード曲が多く感じられた。
相談はひとり10分ほどの持ち時間で終えていた。マリは時計を眺めながら「今日は無理かも・?また明日出直しか…」そう考えながら宙を見ていた。気が付いたら十一時が過ぎて今日は無理かも、と思っていた。その時だった。
急に花子の声がした「あなたどうぞ」
マリは咄嗟だったので心の準備が出来ていなかった。
「どうぞお掛けください」花子は抑揚がなく淡々とした口調だった。
「失礼します」
「はい、聞きたいことがあったらどうぞ」
「別にありませんけど」マリは自分でもなんでこんな返答をしたのか理解できなかった。
花子は「あなた、私に会いに来たの?」
「あ、はい」
「会ってどうしたかったの?」
「何か感じたかったんです。で、小樽から3日前に井の頭に引っ越して来ました」
「そう・・・で、私と会って何を感じたかった?私を見てどう感じた?」
「まだ実感ありません」
「そう、あなたの生年月日は?」
「平成5年2月28日です」
「はい、でなんで私なの?」
「ネットで花子さんのこと拝見して興味持ちました」
「どう興味持ったの」
「本当に悟りってあるのか?またどんなものなのか?」
「あなたは悟りについてどう思うの?」
「絵空事」
「なんで?」
「私の田舎は北海道の小樽なんですけど、どのお坊さんを見てもお経とお葬式ばっかで、なんか仏教という葬式屋さんみたいな感じが…」
「フふ、そっかそれ以外では?」
「分かりません。花子さんに会ったら聞きたいこと沢山あったんですけど、全部忘れました…」
「じゃあ、もう30分待っててくれる。はるばる来たんだから、終ったら私と軽く一杯のみに行こうか。どう?」
「あっはい!じゃぁ待ってます」
ここは花子馴染みの居酒屋『とりあえずジョッキーください』という名の店、二人は向かい合わせに席に着きビールを注文した。
珍しくマリは緊張しまくっていた「あの~~う。初対面なのにこうして酒飲んでかまわないのですか」
「私が誘ったんだからそれでいいの。なにか理由必要?」
「あっ、いやっ、そんなことありません。オス」
「オスか…面白いね。武道やってたの?」
「あっ、はい!」
マリは今まで感じたことのない得体の知れないなにかを感じていた。深呼吸して気を落ち着かせ口火を切った。
「高校を卒業して進路を考えていたら。花子さんの事を取り上げたブログを拝見しました。もとホームレスで、今は会話士として吉祥寺で沢山の人と会話をしてる女性花子って書いてありました。それで花子さんに興味を持ち是非会ってみたいと思いとりあえず私も、札幌の狸小路というアーケード街で書の経験があるもので、それを販売して…」
その時、この店の看板娘理彩が「花さん久しぶりで~す。これサービスです。どうぞ」枝豆を差し出した。
「理彩ちゃんありがとう」花子が礼を言った。
改めて向き直った花子は「それで?」
「お客さんの顔を見てインスピレーションで色紙に書を書いてお金を貰うという方法で、場慣らしというか何というか、そして今ここにおります。オス」
「そうなの…じゃあ明日から、私の横で敷物でも敷いて座ったら。勝手は馴れてるんでしょ」
「あっ、はい、宜しくお願いします」
「宜しくと言われても弟子でないから適当にやって下さい。私も、特別教えることないから、適当に私のこと観察して下さい」
改めて二人は乾杯した。
「花子さんはどうしてホームレスになったんですか?」
「うん、これからは花さんでいいよ。みんなそう呼んでる。私は卒業してもやりたいことがなかったの。みんなと同じような道に興味がなかったのね。それでどういう訳かホームレスやったのよ。今となれば次郎さんというホームレスと縁があって、会うための当然の成り行きなんだけどね」
「その次郎さんが花さんの、お師匠さんなんですか?」
「そう、私が花開く切っ掛けを与えてくれた人」
そこに理彩がやってきた。
花子が「理彩ちゃん、この子名前え~と?」
「あっ、麻理枝です、マリと呼んで下さい」
「そう、マリさん、小樽から来たばかりなの、いろいろ東京の事とか教えてあげてちょうだい」
「理彩です宜しくお願いします」
「理彩ちゃんも一緒に飲まない?」
花子が「それじゃあ乾杯!」
こうしてマリの東京での生活が始まった。
麻理枝若干二一歳の春の東京
END
サンロードのストリートミュージシャンに「すみませんこの辺に花子さんという方が夜に出店してるって聞いて来たんですけど知りませんか?」
「あ~~。花さんならそこの銀行前だけど、彼女は不定期だから今日現われるかどうか分からないよ。あれを見てみなよ、若いお姉ちゃんが行儀よく並んでるだろ、花さんに話しがあるならあの後ろに並ぶんだ。でも、来るかどうか分からないから気長にね。暇だから僕の歌でも聴きながら待ってなよ」
そう言い終えると若者はギター片手に歌い始めた。
並び始めて1時間が経過した。小さい椅子と折りたたみの小さなテーブルを持った女性が現われた。並んでいる人の中に顔見知りがいて挨拶を交わしていた。女性は支度を終え、先頭から手招きして椅子に座らせ話し始めた。花子が来た辺りから先程のミュージシャンは気を遣ってからか声のトーンを落とし、歌のジャンルもバラード曲が多く感じられた。
相談はひとり10分ほどの持ち時間で終えていた。マリは時計を眺めながら「今日は無理かも・?また明日出直しか…」そう考えながら宙を見ていた。気が付いたら十一時が過ぎて今日は無理かも、と思っていた。その時だった。
急に花子の声がした「あなたどうぞ」
マリは咄嗟だったので心の準備が出来ていなかった。
「どうぞお掛けください」花子は抑揚がなく淡々とした口調だった。
「失礼します」
「はい、聞きたいことがあったらどうぞ」
「別にありませんけど」マリは自分でもなんでこんな返答をしたのか理解できなかった。
花子は「あなた、私に会いに来たの?」
「あ、はい」
「会ってどうしたかったの?」
「何か感じたかったんです。で、小樽から3日前に井の頭に引っ越して来ました」
「そう・・・で、私と会って何を感じたかった?私を見てどう感じた?」
「まだ実感ありません」
「そう、あなたの生年月日は?」
「平成5年2月28日です」
「はい、でなんで私なの?」
「ネットで花子さんのこと拝見して興味持ちました」
「どう興味持ったの」
「本当に悟りってあるのか?またどんなものなのか?」
「あなたは悟りについてどう思うの?」
「絵空事」
「なんで?」
「私の田舎は北海道の小樽なんですけど、どのお坊さんを見てもお経とお葬式ばっかで、なんか仏教という葬式屋さんみたいな感じが…」
「フふ、そっかそれ以外では?」
「分かりません。花子さんに会ったら聞きたいこと沢山あったんですけど、全部忘れました…」
「じゃあ、もう30分待っててくれる。はるばる来たんだから、終ったら私と軽く一杯のみに行こうか。どう?」
「あっはい!じゃぁ待ってます」
ここは花子馴染みの居酒屋『とりあえずジョッキーください』という名の店、二人は向かい合わせに席に着きビールを注文した。
珍しくマリは緊張しまくっていた「あの~~う。初対面なのにこうして酒飲んでかまわないのですか」
「私が誘ったんだからそれでいいの。なにか理由必要?」
「あっ、いやっ、そんなことありません。オス」
「オスか…面白いね。武道やってたの?」
「あっ、はい!」
マリは今まで感じたことのない得体の知れないなにかを感じていた。深呼吸して気を落ち着かせ口火を切った。
「高校を卒業して進路を考えていたら。花子さんの事を取り上げたブログを拝見しました。もとホームレスで、今は会話士として吉祥寺で沢山の人と会話をしてる女性花子って書いてありました。それで花子さんに興味を持ち是非会ってみたいと思いとりあえず私も、札幌の狸小路というアーケード街で書の経験があるもので、それを販売して…」
その時、この店の看板娘理彩が「花さん久しぶりで~す。これサービスです。どうぞ」枝豆を差し出した。
「理彩ちゃんありがとう」花子が礼を言った。
改めて向き直った花子は「それで?」
「お客さんの顔を見てインスピレーションで色紙に書を書いてお金を貰うという方法で、場慣らしというか何というか、そして今ここにおります。オス」
「そうなの…じゃあ明日から、私の横で敷物でも敷いて座ったら。勝手は馴れてるんでしょ」
「あっ、はい、宜しくお願いします」
「宜しくと言われても弟子でないから適当にやって下さい。私も、特別教えることないから、適当に私のこと観察して下さい」
改めて二人は乾杯した。
「花子さんはどうしてホームレスになったんですか?」
「うん、これからは花さんでいいよ。みんなそう呼んでる。私は卒業してもやりたいことがなかったの。みんなと同じような道に興味がなかったのね。それでどういう訳かホームレスやったのよ。今となれば次郎さんというホームレスと縁があって、会うための当然の成り行きなんだけどね」
「その次郎さんが花さんの、お師匠さんなんですか?」
「そう、私が花開く切っ掛けを与えてくれた人」
そこに理彩がやってきた。
花子が「理彩ちゃん、この子名前え~と?」
「あっ、麻理枝です、マリと呼んで下さい」
「そう、マリさん、小樽から来たばかりなの、いろいろ東京の事とか教えてあげてちょうだい」
「理彩です宜しくお願いします」
「理彩ちゃんも一緒に飲まない?」
花子が「それじゃあ乾杯!」
こうしてマリの東京での生活が始まった。
麻理枝若干二一歳の春の東京
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