ピ リ カ(動物と会話する女の子)
「おはようございます」

「おはよう。 さっき話したように犬が死んだんだけど、原因が解らないまま引き取られた。 タマの時と同じだよ。 青ちゃんの証言のように、いずれも君が指名されたんだ。 たぶんなにか関係してると思う。 とりあえず様子を見るから君はしばらく山田先生の助手をしてほしい」
        
「ハイわかりました。それと今朝、家を出たところで女の人に尾行されまして、私が気が付いたのを察知してその女性は逃げたんです。 なんとか先回りをして話しかけたんですけど、私のことなんか知らないっていうんです。 私もなんの証拠もないのでつい謝ってしまったんですけど間違いなくつけ回されてました」

「そのご婦人に面識はないのかい?」

「はい、まったく思い当たりません」

「そっか、思い出したら私に報告して下さい。 じゃぁ山田先生の助手お願いしますよ」

「はい、失礼します」

 ピリカは、その女性の顔をなんとか思い出そうとしていた。 それから数日が過ぎたがストーカーの影も無く、これという異変も感じられなかった。 そんな時、地下鉄のホームで手を振っている女性の姿があった。

「ピリカちゃん元気してた~」声の主はピリカが以前アルバイトしていたススキノのRONという店のホステス理恵だった。

「あっ理恵さんお久しぶりです。 これからお勤めですか?」

「そう、これからなの、わたし店移ったのよ。 今度、飲みに来てね」

理恵から名刺をもらい話しそこそこに別れた。 理恵さんか…… あれから七年になるけどまだススキノで頑張ってるんだ。……う? あれ? なにか気にかかった。

自宅に戻り真っ先にパソコンのキーボードを叩いた。 札幌市Fさん。 出て来た写真を拡大してみた。 うそっ! このオバサンだったの? なんで、今頃になって ?どうして? 思案にくれた。

もし院長に事情を話したら私が今まで隠してきた能力が表に出るし、そうしたら病院にいづらくなる。 だって院長より動物の心がわかるなんて院長も格カッコつかないよね。 今度の休み倶知安に帰って相談しよ。 なんで今頃になってあのFさんが…… 気が晴れない日が数日続いた。 

久々の帰省。 なんだか足が重い。

「ユメ、ミルキーただいま~ 元気にしてた?」

「ピリカ姉ちゃんお帰り」

「ユメただいま。 ミルキーの面倒みてる?」

「うん、とってもいい子だよ」

「ユメ、あんたミルキーのお母さんみたいだね」

「そうだよ、ちゃんとおっぱいも出るもん」

「そっかい、それは動物にはよくあることなんだよ。 母親のようにしてるとお乳が出るんだよ」

「わ~い! 私、ミルキーのお母さんだ」

「ガンバってねユメ母さん。 で、私のお母さんは?」

「出かけた」

「お父さんは?」

「一緒」
 
母親に電話をした「私、今どこ? そう、わかった。 待ってる」

ミルキーに「ミルキー大きくなったね。この家どうですか?」

「ピリカ姉ちゃん、私がこの家に来てから、もう二回も雪降った。 なんで新入りみたいなこというの?」

「あっ、ごめんね。 ユメがお乳が出るって言うから、そうだよねおかしいよね。 それにしてもユメは何で今でもお乳あげてるの?」

「だってミルキーが欲しがるから」

「ミルキー、あんたまだお乳飲んでるのかい?」

「はい、飲んでるポン」

「もう止めなさい」

「なんでポン?」

「ユメのエネルギーがだんだんなくなって倒れちゃうからよ」

「ユメ倒れたら……嫌だポン」

「そう、だからもう飲むの止めなさいね」

「ハイ、ポン」

「あんた、話し終わった後のポンはどんな意味があるの?」

「……?」ミルキーは理解出来ないでいた。

ユメが「お姉ちゃん、ミルキーはわかってないのよ自分の癖を」

ピリカとユメは笑った。 そして母親が帰宅した。

「ただいま~」

「あっお母さんだ! ポン」ミルキーが走った。

「お帰り。今日はどうしたの? 突然帰ってきて」

「うん、お父さんとお母さんに話し聞いて貰おうと思って」

その夜、食事をしながら、学生の頃ススキノでアルバイトした事以外、一通りの経緯をピリカは話した。

父親が口を開いた「そっか、逆恨みか…… 事が事だけに難しい問題だな」

母は「院長にあんたの能力知れたらマズイのかい?」

「だって院長と私の見解が違ったらまずいと思わない? いつも院長の診断が正しいとは限らないし。 今回だってタマも犬もどこも痛くないってあの子達がいうの。 でも、もし院長だったら何らかの病名を付けると思うのね」

「なんで院長はわからないっていえないのさ?」

「動物病院という所は動物が調子悪いから高いお金を払って受診するの。 人間のように健康診断だけでは滅多に受診しないの、保険も無いのに…… つまり、犬や猫が病院に来る場合はなんらかの病気なの、わからない場合はストレスのせいにする場合もあるけど……」

「なんか、人間の医者みたい」母が言った。

父親は「ピリカ、お前はどうしたいと思ってる?」

「うん、だから悩んでるの、辞めるか続けるか」

母親が「続けるにしても病院に迷惑掛からないのかい?」

「そう、もしこれがまだまだ続くようなら、病院の存続に係わると思う。 ネット配信なんてされたら一気に広がるから、あんな小さな病院なんてあっという間に潰れちゃうかも……」

「辞めちゃいなさい。 そして倶知安に戻って来なさい。 倶知安だって獣医の仕事はいっぱいあるわよ」母らしいコメントだと思った。

「でも、ここで辞めたら私が負けを認めたような気がするし、そんなことで負けるのシャクなの、なによりも、私への復讐のために死んだ犬と猫に申し訳ない」ピリカの目から涙が落ちていた。

「ピリカ姉ちゃんどったの? ポン」ミルキーが心配そうに言った。

「そっか、これ以上病院に迷惑掛けたくないなら、ちゃんと院長と話しをして結論を出しなさい。父さんと母さんはお前の味方だから、どっちの道を選んでも応援する。 なぁ、母さん」

「うん、ピリカお前の好きにしなさい。 お前の人生なんだから」

「うん、ありがとう。一晩考えて結論出すね」

翌朝早くピリカは「お母さんおはよう」

「はい、おはよう」

「私、辞める事にしたから」

「そうかい…… わかった」

「但し、このままでは辞めないから……」

「どういう事?」

「その嫌がらせをした相手に謝罪させるの」

「おやり! ガツンとやっておやり!」

「ねぇ、ピリカ姉ちゃん、昨日からどうしたポン?」

「ごめんねミルキー、心配かけて、でもこれ人間世界の話しだから説明するの難しいんだ」

「ポン?」

ピリカは辞表を持って院長室を訪ねた。

「院長、短い間でしたがお世話になりました。 今月で退職させてください」

「例の件のことかね? あんな事で君が辞めなくてもいいと思うけど、僕はそんなちっぽけな人間じゃないよ」

「はい、ありがとうございます。 ですが、やはり辞めさせていただきます。 私が居ることでこの病院に迷惑が掛かるなら、まずは辞めるべきだと考えました。 でも、個人的にその人達とはしっかり向き合いたいと考えております。 決着が着いたらまたここでお世話になるかどうか相談させて下さい」

ピリカの決意の固さを感じた院長は辞表を受け取った。 ピリカは病院を去る時呟いた。

「ごめんね、タマとワンちゃんごめんね私のために」
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