恋は、秘密主義につき。
繁華街の中心から少し外れた3台分の狭いコインパーキングに、白い車が停まっていた。

「・・・お邪魔します」

ぎこちない声でそれだけを言い、助手席に乗り込む。
バッグを膝の上に乗せシートベルトをすると、体が勝手にきゅっと縮こまり、心拍数まで上がった気がする。

とにかく、さっきの失言を謝ってあとは何もなかったように振る舞えば、きっと彼も忘れてくれます。

私は。胸の中で大きくひとつ呼吸を逃し。お腹の底にありったけの力を込めると、決死の思いで「あのっ」と声をかけた。
静かに走り出した車内に、幾分切羽詰まった響きが突き抜けて。こっちに流れた彼の横目は驚いていたようにも見えた。

ここで挫けたら一生言えそうになかったから。俯いて、バッグの持ち手をぎゅっと握り込む。清水の舞台から飛び降りる勢いで一気に続けた。

「あの、一実ちゃんに言ったことは気にしないでください・・・っ。本当に子供みたいなことを言ってすみませんっ。その、兄さまには佐瀬さんと仲良くしなくてもいいって言われたんですけど、私はもっと近づきたいって思いましたし、佐瀬さんにも、もっと私をちゃんと見て欲しいってずっと思っていて、それで・・・!」

もう。頭で考えるよりも先に口から勝手に言葉が溢れてきて。止められない。

「一実ちゃんとあんまり楽しそうに笑っている佐瀬さんを見ていたら、すごく悲しくなってしまって、ヤキモチを焼いちゃったんです。ごめんなさいっ、ぜんぶ私が悪くて、一実ちゃんにも心配かけて、佐瀬さんにも迷惑かけてしまって・・・っっ」

そこまで言って、涙で言葉が詰まる。
絶対に泣きたくないって思っていたのに。ぽたぽたと、握る手の甲に零れて落ちる雫。

すぐに泣く面倒臭い子供にだけは思われたくなかったのに。きっと酷く呆れられた。
切り裂かれるほどの胸の痛みを憶えて、立ち直れる気がしない。鼻を小さくすすり上げて、項垂れるしかなかった。
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