恋は、秘密主義につき。
私の時間が欲しい。モノではなく。
答えに戸惑い言葉が詰まったのを、征士君は優しく言い重ねた。

『難しく考えないでいいよ。一緒にいる間は俺のことだけ見て知って欲しいし、レイちゃんのことももっと分かりたい。その為の時間を俺にプレゼントして欲しいって意味なんだけどね。・・・ダメかな?』

俺だけをもっと好きにさせる。
この部屋で情熱的なキスをくれたあと、彼が告げた本気。

あの時は確かに。
応えるために誠実でありたいと心から思えた。偽りなく。

今の私は。
佐瀬さんへの気持ちにすら、真っ直ぐに向き合えていない気がします。

一実ちゃんが言ってくれたように、その先に踏み出す一歩を怖がっていたら、あるはずの未来をぜんぶ自分で閉ざすことと同じ。
失わなくてもいいものを失って、あの時どうしてそうしなかったのかと一生悔やむくらいなら・・・!


心臓にめり込んだ鉛の銃弾が押し返されて、小さく転がり落ちたような。
深く呼吸をして。
濁って滞留していた何かを、ゆっくりとそこから逃していく。

「・・・駄目じゃないですよ。私も征士君に、精一杯のことをしたいって思ってます」

お腹の底と、スマートフォンを握る指にきゅっと力を込めた。
精一杯、真摯に。選ばなくては。


私の人生を懸けた、恋の行く先を。





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