恋は、秘密主義につき。
愁兄さまもお祖父さまもパパも、結婚の意思がないことを話せば無理強いしたりはしないでしょう。
ママは、征士君の何がいけないのかと問い詰めて、考え直すよう必死に私を説得するかも知れません。

そして。子供の頃の約束を忘れずに、ずっと好きだったと真っ直ぐ告白してくれた征士君には。
自分が逆の立場で、佐瀬さんに『やっぱりお嬢ちゃんとはムリだ』って言われても。簡単に諦めなんて、つくはずもありません。・・・・・・今の私だったら、胸が千切れそうなくらいにそれが分かってしまうのに。

それでも彼を恋人として好きになれない以上。傷付け合う結果にしかならないとしても、私は言わなくちゃいけないんです。逃げることは、・・・出来ないんです。

「なぁに、そのカオ! 言ったでしょ美玲、全力で助けてあげるからあたしを頼ってって! 遠慮なんかして一人で悩むだけムダだからねっ? 分かった?!」

思い詰めた表情にでもなっていたのか、一実ちゃんがわざと怒ったように私を覗きこむ。
口がへの字に曲がっているのに目は優しい彼(彼女)。

兄さまにも佐瀬さんのことは言えずに、本当は心細くてしかたがないのを懸命に堪えていました。自分で自分に言い聞かせて、挫けないよう奮い立たせて。

たった一人でも味方でいてくれるのが心から嬉しかったのと、ほっとしたのとで思わず涙腺が緩んでしまいました。

「一実ちゃぁん・・・」

「ハイハイ、泣かないの」

ポロポロ涙を零して小さくしゃくり上げる私の横に来た一実ちゃんは、そっと抱き締めて胸で泣かせてくれました。
見た目は女の子で体付きも華奢ですけど、胸板はがっしりしててやっぱり男の子って思いました。

「・・・大丈夫。何があっても美玲の味方だからサ、・・・ボクは」

優しく髪を撫でながら、いつもより低く響いた声。
ときどき一実ちゃんは、すごくしっかりした頼りがいのある男友達に見えてしまうけれど。
私の大親友だってことには1ミリも変わりがないって。・・・思うのです。



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