恋は、秘密主義につき。
慰められたあとは、いつどこで佐瀬さんに告白したのかだとかを容赦なく吐かされてしまい。
報告のつもりだったのが、いつの間にか取り調べになっていました。

8時にはお開きにして、駅の改札では、笑顔で手を振り一実ちゃんと別れた。
明日のことは、帰ってきたらどんなに遅い時間でも、必ず電話で話すと約束をして。

会社帰りの乗客で埋まり始めたホームで、出来るだけ空いている列の後ろに並び、電車を待つ間に到着時刻をラインで佐瀬さんに知らせておく。

すぐに既読になって『わかった』と短く返信されるのも何だか、恋人同士のやり取りみたいに思えてしまって。はにかみ笑いを浮かべてしまいそうになったのを、慌てて表情を引き締めた。

少しの時間、いっしょに居られるだけでも。顔を見ていられるだけでも。
佐瀬さんがそうしてくれるのが、本当に嬉しいんです。
征士君との結婚を白紙に戻せていないのに、多くを望む資格も、今の私にはまだないと思うから。

発着を報せるメロディとアナウンスが流れ、ブレーキを軋ませながら車両が風を切って滑り込んで来る。
早く貴方に会いたい・・・・・・。
ただ抱き締めてほしい。ぎゅっと強く。いっそ跡が残るくらいに。

不意に沸いた心許なさを飲み込み。前の人に続いて、開いた扉の中へと進んだのでした。
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