恋は、秘密主義につき。
その夜。

「・・・大丈夫。佐瀬さんは分かってくれてます。きっと平気。・・・大丈夫」

お風呂も済ませ、ベッドの上に正座をしてスマートフォンの画面を食い入るように見つめながら。呪文のように自分に言い聞かせた。

深呼吸を2度。指先でタップしてコール。
出てほしい。・・・出ないでほしい。束の間、せめぎ合う思い。

『美玲?』 

耳の奥に響いた、柔らかくて優しい愁兄さまの甘やかな声に。
勇気を奮い立たせて。

「・・・大事なお話があるんです。兄さま」




知りませんでした。
その時にはもう。私は窓しかない高い塔の天辺にいて。
降りることも出来なくなっていたこと。

私だけが、知りませんでした。





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