恋は、秘密主義につき。
7-2
『それなら、ちゃんと顔を見ながらゆっくり聞かせてもらおうかな』

切り出す前に、見えない指で私の唇に触れるかのように、やんわりとその先を留めた愁兄さま。

電話だけじゃ寂しいからと、週末に食事に誘ってもらったことを翌日、迎えの車の中で佐瀬さんにありのまま伝えました。

「・・・会うのは夕方だろ。それまで、オレんトコにいりゃいい」

「いいんですか・・・?!」

「なンなら前の晩から来るか?」

素っ気なさと裏腹に、上げた口角には妖しい色気が潜んでいて。

ずっと一緒にいられることが嬉しくて仕方ないのに、またママに嘘を吐くのはやましく思えたり。天使の良心と悪魔の誘惑を乗せたジェットコースターが脳内を駆け巡って、抗えない欲望に着地する。

「・・・一実ちゃんのところに泊まることにしてもらえるか、訊いてみます」

はにかんだように笑むと、佐瀬さんの片手が黙って私の髪を撫でた。


自分の意思で。自分の脚で、兄さまとお祖父さまが用意してくれた安心保証付きの道を少しずつ逸れていく。

パパもママも思ってもなかったでしょう。
ごめんなさい。・・・本当にごめんなさい。
嘘や隠しごとも、あとで何より悲しませてしまうのに。

きっとどうしたって心配をかけてしまう親不孝な娘ですけれど。
どうか信じてほしいんです。
私はとても幸せな恋をしたことを。
二人で見つけた道を佐瀬さんと歩いていくと決めた、私を。

きゅっと両手を握り締め、心の中でそう願わずにはいられませんでした。
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