恋は、秘密主義につき。
シャツ越しに感じる佐瀬さんの逞しい体付き、温もり。・・・匂い。隙間もないくらい密着しているのに声は何故か、ずっと遠くに投げかけられたように聴こえた。

「意地は通してみせますよ。・・・ロクデナシなりに」

「お前にしては、珍しく骨抜きにされてるじゃないの」

「・・・惚れちまったモンはしょうがないでしょう」

「可愛くてしょうがないの間違いに、見えてるけどねぇ」

少し意地が悪そうな、千里さんのしとやかな笑い声。

惚れちまった、・・・って。
初めて言われたのを思わず耳を疑って、息まで止まりそうになっていました。
私だけが顔も上げられず、貴方がどんな表情をしているのかさえ。

「あの頃の、狂犬みたいな眼もあたしは嫌いじゃなかったけどね。それ以上、男を下げるんじゃないよ?」

「・・・姐さんには敵わねぇな」

「名前でお呼び」

上から佐瀬さんを睨んでいそうな。けれどそれもきっと、千里さんの親愛の裏返し。



「美玲ちゃん。またいらっしゃいね」

包み込まれるみたいな艶やかな笑顔に送られ、心臓が落ち着かないまま、はにかみながら頷いた私。
今度は。佐瀬さんのことをほんのちょっぴり、訊いてみてもいいでしょうか・・・・・・。


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