恋は、秘密主義につき。
街灯と電飾に灯された夜の下を歩き出すと同時に、当たり前に肩を抱かれて。
口当たりの良かったあのお酒のせいか、少し熱っぽくてふわふわしていました。
5月ももう終わり。ぬるくもない丁度いい心地の風が、火照った頬を撫でていく。

商店街は、飲食店以外はシャッターも下りて人けもまばら。
いつもだったら。誰もいない夜道だとしても、恥ずかしくて絶対に出来ないのに。空いている佐瀬さんの腕に自分から手を絡めると、ピタリと躰ごとすり寄せ、隣りを歩く。

佐瀬さんも。何も言わずに黙ってそのまま。
コインパーキングに置いた車に乗り込む時、離れた腕を寂しく思ってしまったくらい、温もりを恋しがっている私がいました。

「ンなところで煽るな」

溜め息雑じりの低い声。
助手席に収まり、ぼんやりとシートベルトもしていない内に、伸びてきた大きな掌が頭の後ろを捕まえて私をぐっと引き寄せる。途端、最初から深いキスが繋がり、離れかけるたび私から何度も追いかけた。

「・・・オレをどーしたいの、オマエは」

心なしか不機嫌そうな顔も、何だかとても愛おしくて。
 
「佐瀬さん、・・・すき」

首に両手を回して抱き付く。

「佐瀬さんは・・・?」

「あー・・・、ハイハイ」

「すきって、もう一回いってください・・・」

子供をあやすように背中をポンポン叩かれ、「眠いンだろ。いい子だから、着くまで寝てな」と宥められたのは憶えていました。

「手ェ繋いでてやるから、・・・ほら」

右手が温かくて。車が動き出した震動がゆりかご代わりに、どんどん瞼が重くなっていく。

「・・・ったく」

意識が落ちる手前で、苦そうな困ったような呟きを聴いた気がした。

「オレをここまで振り回すなんざ大した女だねぇ・・・」


握られた手をぎゅっとされてるって、ふわふわとした頭で思いながら。気が付いた時には眠りに引き込まれていたのでした。


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