恋は、秘密主義につき。
8-1
6月に入った途端。晴れ間より曇り空の方が多い、すっきりしないお天気が続いています。

「でもまだ涼しいわよねー」

「今年は冷夏だって、ニュースで言ってましたよ?」

「どうせ30度越えでしょ。それで『冷夏』ってナニさまよ」

愛らしい顔で毒づく一実ちゃん。
お昼休み。8階にある社員専用のランチルームでお弁当を広げ、気兼ねのないお喋りを楽しめるひととき。
仕事中の内緒話は声も潜めないといけませんし、やっぱり神経も使いますし。

ランチルームといっても、いわゆる社員食堂じゃなくて。フードコートみたいに4人掛けや2人掛けのテーブルとイスがずらりと並んだ休憩室です。
飲み物やアイスの種類豊富な自動販売機コーナーもありますし、個室っぽくパーティションで仕切られたエリアもあって、ちょっとしたミーティングを兼ねてランチをする部署もあったり、わりと自由に使われています。

私も一実ちゃんもお弁当派ですけど、見渡すと、提携している数種類のデリバリーランチを日替わりで注文している社員が大半みたいです。


「それで結局、あれから許嫁クンは音沙汰ナシなわけね?」

黒ゴマのかかったご飯をきれいな箸使いで口に運びながら、一実ちゃんが思案気に。

「美玲を諦めたってことかしら」

「・・・どうでしょう」

私は眉を下げて曖昧に笑み返しました。

「それならそれで、きちんと伝えてくると思います。・・・征士君なら」
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