恋は、秘密主義につき。
10-2
進行役の司会者のアナウンスで、楠田グループ企業の要、レーベンパートナーの代表取締役社長である、徹おじさまの誕生日パーティが和やかに始まる。

それほど畏まった雰囲気でもなく。本人もわりと砕けた挨拶をし、祝辞と乾杯の音頭を取ったお祖父さまが、壇上で微笑ましく父親の顔を覗かせる一幕もあった。

姿を目にするのはお正月以来。流行(はやり)のグレーヘアで、少し小柄な、紳士然としたタキシード姿を見るかぎり元気そうで安心した。

教職の経験もあって、叱られた記憶がないくらい、いつも穏やかなお祖父さま。
私が社会人になってからは、お誕生日やお正月、なにかの節目に会うくらいで。
海外に行ったお土産やプレゼントが時節に関係なく届く。そのたびにお礼の電話で楽しくお喋りをして。

政治家としてのお祖父さまには、また別の顔があることは分かっていても。
私にとっては優しくて子供の頃から大好きなお祖父さま。

今日は久しぶりに会えるのがやっぱり嬉しかった。
お祖父さまもきっと喜んでくれているはずと、遠くから見守りながら胸の中に笑みがほころんだ。



『皆様、ごゆるりとご歓談をお楽しみくださいませ』

女性司会者の華やいだ声を合図に、ピアノが軽快なリズムのジャズ曲を奏で出し、ベースやドラムがセッションしていく。

「ミレイ。挨拶なんか後回しにして、さっさと食べるよ」

ずっとスマートフォンを片手に、乾杯もおざなりだったふーちゃんが上着のポケットにやっとそれを仕舞いこんで億劫そうに。

「え?あ、はい。あのっ、佐瀬さんの分も取ってきますね!」

慌てて彼に声をかけた私を呆気なくビュッフェコーナーの方へ、引っ張って行きました。

フレンチ系と中華系のお料理は、ホテルお抱えの一流のシェフによるもので。
お店に食べに行くのと変わらないクオリティでしたし、特に、本格的だった点心を心ゆくまで堪能してしまいました。

これが美味しい、そっちも食べたい、とシェアしながら楽しむ私とふーちゃんを、佐瀬さんは引率の保護者のように見守ってくれていました。
視線が合うたび、やんわりと目を細める仕草になんだかすごく、きゅっとなって。はにかんでは、赤らむ顔を背ける私なのでした。


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