恋は、秘密主義につき。
「・・・ほんと、バッカじゃないの?」

途端に毒づくふーちゃん。
笑顔の仮面から、表情のない能面に張り替わっていました。

「そう言えば、たぁ君と愁兄さまはどこにいるんでしょう?」

似たような格好の男性ばかりとは言え、私が兄さまを見間違えたりはしませんし。
会場に入った時から視線を巡らせてみても、届く範囲にはどこにも見当たらなかったのです。

「ジジィもいなかったし、みんなで悪巧みでもしてんじゃない?」

「兄さまはそんなことしませんてば~」

「ハイハイ」

棒読みで返されました。

「ぼく、ちょっと行ってくるから。佐瀬サンから離れないでよ」

戻ってきた私達に気が付き、円卓の傍でスマートフォンを片手に佇んでいた彼が目を上げる。

「行ってくるって、どこにですか?」

「仕事だよ。終わったら佐瀬サンに連絡入れるからさ。飽きたんだったら、ロビーで珈琲でも飲んでなよ」

そう言うと、踵を返してスタスタと行ってしまったふーちゃん。

残された私は困ったように隣りを振り仰ぎ。
佐瀬さんはやれやれと言いたげに、気怠い手付きで髪を掻き上げた。・・・のでした。
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