恋は、秘密主義につき。
「・・・どした」

さっきまでの剣呑さが嘘のような、いつもの気怠い声が頭上で聞こえ。我に返って顔を上げた。
いつしか腕も、やんわりと腰に回っている。

「いえ・・・あの。こんなにすぐ、お祖父さまに許してもらえるって・・・思ってもいなかったので・・・・・・」

極道だった人との結婚なんて、楠田の人間として有るまじきことだと。
公人としての立場もあるお祖父さまなら、なおさら赦しがたいだろうと。

家を出てどこかの島でもいい。誰も二人を知らないところで生きていこうと、決心すらしていました。
それがどんなに家族を傷付け、悲しませてしまうことかと、身を切られる痛みも当然の報いだとずっと堪えて。

「嬉しそーなツラには見えねぇな」

すっと目を細める貴方に、指で顎の下を掬われる。

「今さら後悔か?」

首を横に振る仕草で、ぼんやり見つめた。

「・・・ほんとうに私、佐瀬さんといていいんですか・・・?」

「保科も言ってたろ」

「これって夢・・・?」

「・・・相変わらず、寝起きの悪い女だねぇ」

人が悪そうに口角を上げた、佐瀬さんの目があんまり優しくて。
不意に鼻の奥がつんとしたかと思った時には、涙がこぼれ落ちていました。

「ごめ、・・・なさ」

「なンであやまる」

「ごめん、なさい・・・」

「・・・うるせーぞ」

顎の下を持ち上げられて甘く吐息が塞がれた。
オマエはオレのものだと、一息に食べられて繋がる。

「・・・佐瀬さん」

私を離した貴方に真っ先に言いたかったこと。

「私と結婚してくれますか」

「・・・オマエね」


男の立つ瀬がないと深い溜息を吐き、佐瀬さんは。苦虫を噛みつぶしたような顔をしたのでした。
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