恋は、秘密主義につき。
「ところでねぇ、佐瀬君」

私と佐瀬さんに、愁兄さまの隣りに腰かけるよう勧めたお祖父さまが、運ばれてきた珈琲カップに口を付けたあと、にこやかに切り出す。

「将来のためにも、愁一に雇われたボディガードのままってわけにいかないだろうし、どうだろうなぁ、私の手伝いをお願いできないだろうかねぇ?」

「お祖父さまのお手伝い・・・?」

「愁一と彼に任せて作りたい会社があるんだよ、レイちゃん。色々とノウハウを持っているからねぇ佐瀬君は。埋もれさせておくのも、もったいない」

心の中で言ったつもりがつい漏れてしまい、お祖父さまが私に笑顔を傾けた。

「愁一とだから、レイちゃんも安心すると思ってねぇ。ぜひとも力を貸してもらえたら、ジィジは嬉しいなぁ」

愁兄さまと佐瀬さんが一緒に。
思いもかけない話でしたけれど、兄さまを見上げると髪を撫でられ、柔らかく微笑まれました。

私が佐瀬さんのことを打ち明けた時、『預かる』と言ってくれたのはこういうことだったんでしょうか。
佐瀬さんをパーティにまで出席させたのも、私のためだけじゃなく、彼とお祖父さまの間を取りなす目的もあったのかもしれません。 


絡んで玉になっていた糸が、次第に解けていく期待にほっとしていました。
私達の前を、その糸が道になって真っ直ぐ延びていくみたいで。

口許に自然に緩んだ笑みで、反対側の佐瀬さんを振り仰いだ。

「佐瀬さ・・・」

続く言葉を喉元に引き留めたのは本能でした。

温度も感じない機械のような眼差しで一点に集中した、なにも見通せない横顔。
なぜか胸の奥がざわざわと戦慄く。
どうしてか間違ったような。危うさ。漠然とした。

思わず彼の上着の袖口をきゅっと握りしめ。
お祖父さまから外れて、ゆっくりとこっちを見下ろした佐瀬さんの眸が今度は私を縫い止める。
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