恋は、秘密主義につき。
「あの時は話しかけるたび、どうしたらいいか分からないって顔で俺を見てたっけ」

「･･･そうだったかもしれませんね」

隣を見上げて小さく笑むと、征士君も淡く微笑み返す。

今ふたりがいるのは、とある商業施設の中にできた、癒やしの空間のような水族館だった。
仕事が終わってから電車に20分ほど揺られ、ここを選んだ理由をあえて問うこともなく。

クールビズでノーネクタイの彼は、ブルーストライプのシャツを袖を少し捲り、ビジネスバッグを片手に、もう片手は。リボンタイのブラウスにフレアスカート、オープントゥのパンプスを履いた私と繋いで。

会社帰りに二人で出かけるのは初めてだったし、これが最後というなら。ずっと残る思い出になるのかもしれない。




征士君から『二人で会いたい』とラインが来たのは、徹おじさまの誕生パーティの翌日でした。お祖父さまから鳴宮に許嫁解消の申し入れがあったことも書いてあり、ふーちゃんは『会う必要なんかない』と、にべもありませんでしたけど。


彼が私に答えを望むのなら。
傷付け合うだけの結果にしかならなかったとしても。区切りをちゃんとつけるためにも。
あるがままの気持ちを伝えようと決めていました。
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