恋は、秘密主義につき。
征士君は。彼の渾身の思いが込められた一球を見送った私に、用意してあった新しいボールを投げてくれた。取りやすいスピードで。今度は投げ返せるボールを。引かれた線から、はみ出さないように。

破けて戻らない二人になるのは、本当に悲しかったから。
見えない傷痕が時折、疼くかもしれなくても。純粋に嬉しかった。

「俺のわがままを聴いてくれて、ありがとう」

首を横に振って征士君と見つめ合い。どちらからともなく、笑みをほころばせた。

歩き出した彼が差し出した掌にそっと手を重ね、デートの残りを急がずに楽しむ。
『サヨナラ』とは違うけれど。今日で『終わる』もの。形を変えて『続く』もの。

言葉にしないで、征士君とそれを分け合い。・・・私はビロードの手触りがしそうな箱に大事に仕舞って、奥底に沈めていく・・・・・・。





水族館の出口で立ち止まった彼から、不意に可愛らしい包みを手渡された。

「幼馴染みからの誕生日のお返し。彼は嫌がるかな?」

少し悪戯っぽく笑って言う。
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