恋は、秘密主義につき。
昨日よりは雲を引いた空が、フロントガラスに切り取られた分だけ青く目に冴える。
今日は春らしく、シャツワンピースにカーディガンの装い。髪はカチューシャで乱れないように。・・・気持ちの入れ方が違うのは、ママも私も同じに思えてきました。自分に苦笑い。だって、愁兄さまは特別だから。

運転席の兄さまはカットソーの上に麻のジャケットを羽織った、大人カジュアルの雰囲気で。くどいようですけど24時間365日、見とれていられます。断言します。


「それで昨日のデートは楽しめたのかな、美玲は」

車を走らせながら、兄さまが横顔で私に笑みかける。

「楽しかったです、ピクニックみたいで。すごく長い石段を昇ったり、吊り橋も渡ったんですよ」

その時の様子にも耳を傾けてくれた後に、やんわり尋ねられた。

「彼の部屋は? どうだったの?」

「ちゃんとお掃除もしてあって、男の人らしいお部屋でした。お鍋とか調味料も揃えてあったし、何でも自分できちんとしてるんだなって」

「美玲に無理を言ったり、嫌なことをされたりは、なかった?」

あらためて考えてみたけれど。

「それは・・・無かったと、思います」

ひとつひとつ思い返してみても。

「キスも、たぶん嫌ではなかったですし・・・」

「・・・そう」

耳に届いた声が少し低かった気がして、慌てて言い直す私。

「あのっ、キスって言ってもほんの軽くです・・・! あれです、たぁ君にほっぺにされるのと変わらない感じのです!」

「・・・・・・立樹はそんなことをするんだね、僕の美玲に」


何だか冷んやりした空気が、兄さまから漂ってきています・・・・・・・・・。
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