恋は、秘密主義につき。
目を何度か瞬かせ、たぶん顔中に『え?』が溢れ返っていたと思う。
ようやくのことで、喉まで出かかっていたものを外へと押し出した。

「・・・あの、兄さま、ボディガードって・・・?!」

確かに。会派のドンとも呼ばれているらしい代議士のお祖父さまには、目に入れても痛くないくらいの勢いで可愛がられてます。
でもだからって。自慢じゃないけれど、誘拐されかけたことも一度もありませんし!

「落ち着いて、美玲」

水面に上がってきた池の鯉みたいに口をパクパクさせる私に、愁兄さまがクスリと笑い、あやすように頭を撫でてくれた。

「言葉ほど大袈裟なものじゃないんだよ。今年は色々と選挙も控えているし、もし、美玲が鳴宮君との婚約を発表することにでもなると、マスコミが騒ぐかも知れないからね。プライバシーを守る為の用心棒代わりかな」

「用心棒、・・・ですか」

「こう見えても佐瀬は格闘術の心得もあってね。いざっていう時は逃げ足も速いし、うってつけだと思っているよ僕は」

「ッ、ゴホッッ・・・ッ」

何故かそこでむせ込んだ佐瀬さんは、恨みがましそうに兄さまを一瞥。

「もっと簡単に言うなら虫除けだと思ってくれればいい。勝手に佐瀬が煩い虫を追い払うから、美玲は何も気にしなくていいってことかな」

事も無げに言って。兄さまは妖しくも極上の笑みを浮かべて見せたのでした。
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