恋は、秘密主義につき。
混み合うホームでも電車の中も、ずっとそのままで。
それこそ兄さまやふーちゃんだったら普通だし、征士君にだってされたことがあるのに。
特別なことは何もなくて、変わらないはずなのに。

・・・・・・変です、私。すごく緊張して、心臓が落ち着きません。
彼とはまだそんなに親しくない間柄だからでしょうか。慣れれば、大丈夫になるんでしょうか。

いっそのこと、佐瀬さん本人に訊ねてみようかと思ったけれど。
どうしてか、顔を向ける勇気が最後の最後で足踏みをする。

線路のカーブやブレーキで車体が揺れるたび、佐瀬さんの腕に力が籠もって私をぐっと引き寄せるから。シャツ越しの煙草の匂いと、仄かな香水の香りを憶えてしまいそう。

視線を俯かせたまま。ぐるぐると頭の中を巡る思い。
彼の腕の中から逃げ出したいのか、このあやふやで不安定な気持ちが収まるまで、こうしていて欲しいのか。


分かったのは。佐瀬さんにされるのは、今までの誰とも違う感じがするって。・・・いうこと。

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