そのままの君が好き〜その恋の行方〜
そして迎えた新年。みんなで賑やかに浅草に初詣に行ってから、1年経ってしまった。


いろんなことがあった1年だった。波瀾万丈と言ってもいいくらいだったが、なんと言っても、まさかプータローになってしまうとは、1年前には、さすがに夢にも思わなかったなぁ・・・。


今年がラストチャンスだと思っていると、言っていた塚原は、とうとう正月休みも帰って来ず、岩武さんが会いに行っていた。


先輩一家は、白鳥さんの両親に引き連れられて、なんと年末年始はハワイに。親父と旅行なんてと、先輩は嫌がったらしいのだが、悠さんが大喜びで、結局押し切られたようだ。


ということで、今年はみんなで集まることは叶わなかった。


そして今、俺は母校の明協高校の懐かしいグラウンドにいる。しばらくのんびりしたいなんて、優雅なことを言っていられる立場ではない俺は、ハローワーク通いを始めとした就職活動に精を出す合間に、久々に母校を訪れた。


俺達を指導してくれた居郷奨(いごうしょう)監督は2年前に退任し、今は高校の3年先輩の星勝(ほしまさる)さんが、指揮を執っている。


星さんとは、高校時代は入れ違いで一緒には、やっていないが、OB会等で面識があり、俺が顔を出すと、暖かく迎えてくれた。


年末で仕事を辞め、ちょっと時間が出来たのでと言うと、じゃ就職活動に支障がない範囲で、後輩達の面倒を見てやってくれないかと言われて、驚いた。


なにしろ高校卒業以来、まともにボールも握ったこともなかったから、とても無理ですと、一回はお断りしたのだが


「お前のような『神世代』のOBが顔を出してくれるだけで選手には、いい刺激になるんだ。」


神世代とは、甲子園初出場初優勝を果たした星さんの世代から俺達の1年後輩の連中までの、甲子園に常連のように出場していた五世代の選手達のことを、いつしか現役の連中がそう呼び出したのだそうだ。


また大袈裟なとは思ったが、おだてられて悪い気はせず、以来コーチの真似事をさせてもらってる。それなりにトレーニングもして、徐々に勘を取り戻し、後輩のバッティングピッチャーくらいは務まるようになったのは、我ながら大したものだと思う。
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