そのままの君が好き〜その恋の行方〜
「私は決心した。もし1年後、私が戻った時、ソウくんに彼女がいなかったら、もう1度、思いをぶつけようって。でもね、お父さんもお兄ちゃんも、自分の意思を貫いて好きな人と結ばれた。だけど、私は自分の意思で、大切な人と別れた。大切な人を傷つけてしまった。その違いは大きかった、私にその資格があるの?そう葛藤したのも、確か。『お前、どれだけソウを苦しめたか、わかってるのか?もうお前の勝手やワガママでソウを振り回すのはよせ』ってお兄ちゃんにも言われた。だから今まで連絡出来なかった。」


俺は何も言えず、ただ唯の言葉を聞いている。


「あなたが会社を辞めた経緯は聞いてる、大変だったね。だけど・・・あなたがフリーになったことは、申し訳ないけど、私にとってはチャンス。今度こそ、ちゃんと気持ちを伝えることが出来る。」


ここで、唯は大きく息を吸った。そして、言った。


「ソウくん、私が間違ってました。私にとって、1番大切なものは、何なのか、私は本当にはわかってなかった。あなたに辛い思いをさせ、傷つけました。後悔してます。ごめんなさい。そんな私だけど・・・もう1度だけ言わせて下さい。ソウくん、あなたが好きです。」


「唯・・・。」


「さっき、あなたをスカウトしたいと言ったけど、それ二の次になっちゃったな。」


そう言って、一瞬苦笑いを浮かべた唯は、すぐに表情を引き締めると


「もし、許してもらえるなら、もう1度、あなたの側にいさせて下さい。そして、出来たら私のビジネスパートナーになって下さい。それをあなたが望まなくても、人生のパートナーとして、一緒にいさせて下さい。お願いします。」


そう言って、唯は頭を下げ、そして真っ直ぐに俺を見た。


そんな唯を、俺は半ば茫然と見つめていた。今日何度目かの沈黙が、俺達を包む。見つめ合う形になった俺達、それに耐えられなくなって、俺は思わず視線を逸らしてしまう。


「ソウくん。」


そんな俺の態度に、唯が切なそうな声を出す。


「ごめん。正直今、混乱してる。とにかく、あまりにも予想外のことが起こって・・・。まさか君と再会するなんて、まして、君からそんなことを言ってもらえるなんて・・・。考えてみたこともなかった。だから・・・今日はありがとう。少し頭冷やして来る。」


そう言って、俺は歩き出す。


「ソウくん!」


そんな俺を慌てて呼び止める唯。


「唯、君の気持ち、嬉しいよ。本当にありがとう。だけど・・・少し時間が欲しい。そんな簡単に返事出来る話じゃないから。」


とうとう「唯」って呼んじゃったな。俺はこの子を忘れられなくて、ずっと苦しんで来た。その子がやっぱりあなたが好きだと言ってくれてる。本当なら、飛び上がって喜ぶべきことだ。


確かに、嬉しい気持ちはある。だけど、それ以上に戸惑いの気持ちを抱いている自分がいる。


そんな自分がよくわからなくて、1人になりたくて、俺は唯を残して、歩き出していた。
< 152 / 177 >

この作品をシェア

pagetop