そのままの君が好き〜その恋の行方〜
「それにしても、先輩もプロ野球選手にくっついて、動き回ってる割には、やることはしっかりやってるんだな。」 


自らプレーする道を絶たれた白鳥先輩は、今度は野球の素晴らしさを伝える立場になりたいと新聞記者になり、今はプロ野球在京球団Sの担当記者。プロ野球選手同様、家を空けることが多い生活だ。


「まぁ、もともとラブラブなところに、適度に離れ離れになってるから、いよいよ盛り上がるよね。」


塚原くんの軽口に、由夏が乗っかる。


「そう言うお二人さんの方は、どうなってらっしゃるんですか?」


と沖田くん。


「大卒2年で一軍登板ゼロじゃ、とてもとても。」


「ホントしっかりしてよ。そのうちにこっちが、デザイナーとして大成しちゃったら、もう仙台になんか行ってあげらんないからね。」


思うような成績が挙げられず、苦闘している塚原くんを、由夏は平気で腐すようなことを言うけど、本当は誰よりも塚原くんのことを心配して、離れていても支え、応援している。


考えてみれば、そんなアツアツカップルと、片や振り振られた男女。かなり微妙な4人組だけど、ここは高校生に戻ったようなノリで、賑やかな雰囲気だった。


しかし、それはある人物の登場で一変した。


「先輩方、ご無沙汰しています。」


その声に、沖田くんの表情がサッと固くなる。現れたのは


「唯さん・・・。」


「今日は兄達の為に、ありがとうございます。」


きらびやかな衣装に包まれ、私達に一礼した唯さんに、私達も礼を返すけど、その場の雰囲気は一転重苦しくなる。


沖田くんは、彼女と目を合わせようともしないし、塚原くんは昔から唯さん嫌い。由夏もそんな彼氏に合わせたわけじゃないんだろうけど、口を開こうとせず、仕方なく私が取り繕うように、言う。


「今日はおめでとうございます。唯さんは、もう留学から戻って来たの?」


「いえ、あと1年、課程が残ってるんで。今回は兄の式に合わせて、久しぶりに帰って来たんです。」 


「そうなんだ。こんなこと言ったら、失礼かもしれないけど、すっかりキレイになって。」


私が唯さんに最後に会ったのは、彼女が高校1年生の時。まだまだ幼さが目立った彼女は、今や立派な大人の女性となって、私達の前に立っている。


「ありがとうございます。今日は先輩方にお会い出来て嬉しいです。」


そんなことを言ってる唯さんに、声がかかる。


「唯!ちょっとこっちに来て。」


「わかった。じゃ、失礼します。今日はよろしくお願いします。」


そう言って、私達に改めて一礼すると、唯さんはパタパタと、声を掛けて来た男性の方に駆け寄って行った。


「今のあの子の彼氏だよ。向こうで知り合ったらしいよ。どっかの会社の御曹司だか次男坊だかだって。」


相変わらず情報通らしい、由夏の言葉に


「よくある政略なんとかって奴か。さっきの式の時も、唯の横で、当たり前のように親族席に座ってやがったらしいし、すっかり婚約者気取りじゃねぇか。」


と吐き捨てるように塚原くんが言う。そんな中、なんとも言えない表情で黙っている沖田くんの姿に、私は胸をつかれていた。
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