そのままの君が好き〜その恋の行方〜
目も回るような忙しい日々。終電に慌てて、飛び乗るような日が何日も続いて、法案作成は、ようやく私の手を離れた。


気が付けば、1月も、もう2/3が過ぎようとしていた。100%ではないが、私のところにもう差し戻されることはないだろうから、国会提出の期限には、ギリギリ間に合うはずだ。私は胸をなでおろしていた。


あれから、沖田くんからは、折に触れ、メールが届いていた。電話が掛かってきたこともあったけど、私に余裕がなくて、なかなか返したり出来ないでいるうちに、すっかり音沙汰がなくなってしまった。


私の状況を気遣ってくれたのだろうが、申し訳ないことをしてしまった。


今日あたり、私の方から連絡を入れてみよう、なんてことを考えながら、廊下を歩いていた私は、前方に見知った後ろ姿を見つけて、パタパタと近寄った。


「近藤さん。」


でも、気が付かずに歩いて行く近藤さん。私は慌てて追い掛けると、彼の肩を叩いた。


驚いたように振り返った近藤さんは、私の顔を見て


「ああ、君か。」


とつぶやくように言った。


「おはようございます。」


「ああ。おはよう。ゴメン、ちょっと考え事してて、気が付かなかった。」


と言う近藤さんからは、いつもの快活さが全く感じられない。


「どうか、なさったんですか?」


心配になって、声を掛けた私に


「いや、なんでもない。法案、目処ついたんだって?」


「はい、お陰様で。」


「なら、よかった。ご苦労さん。」


そう言って笑顔を見せると、近藤さんは去って行ったけど、その笑顔に力がないように思えた。


(出張続きで、疲れてるのかな?)


私は心配になる。


そして、その夜、私は沖田くんに電話を掛けた。


「もしもし。」


『桜井さん、お疲れ。もう一段落着いたの?』


「うん。ゴメンね、メールもなかなか返せなくて。」


『僕の方こそ、桜井さんの仕事の状況がわからなかったから・・・。迷惑掛けちゃったね。』


「そんなことないよ。」


『今日はもう帰れたの?』


「うん。久しぶりにまともな時間に帰って来られた。沖田くんも、もう家?」


『うん。』


それからしばらく、私達は会話を楽しんだ。


「今度、またお食事でもどう?この間のお礼もしたいし。」


『そんなの気にしないでよ。でも、桜井さんに誘ってもらえるなんて、光栄です。』


「またまた。今週末なんか、どうかな?」


『ゴメン、今週末は仕事なんだ。来週末なら大丈夫なんだけど。』


「じゃ、一応、仮押さえさせていただきます。」


『かしこまりました。』


そんなことを言って笑い合う私達。どうやら次のデートの目処は立った。って、これってデートだよね?沖田くん・・・。
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