そのままの君が好き〜その恋の行方〜
翌日、事実が明らかになると、省内は、その話題で持ち切りになった・・・っていうことはさすがに、なかったけど、近藤さんと同じ部署の人、近藤さんを知る人達の間には、衝撃が走った。


私も心配だったけど、さりとて何かしてあげられるわけでもなく、今は部署も違うのだから、あまりしゃしゃり出ることも出来ず、業務に専心する他はなかった。


昼休みもいろんな人に取り囲まれてる近藤さんに、近寄る事も出来ず、1日が終わり。私が退庁する時には、近藤さんはとっくに帰っていた。


結局、私がコンタクトがとれたのは、何日かあとのことだった。その日、珍しく定時で退庁した私は、目の前を歩く近藤さんに気付いた。


「近藤さん!」


「ああ、桜井さん。」


振り返って、笑顔を見せてくれる近藤さんだけど、その顔は、明らかにひと回り、小さくなってしまっている。


「お疲れ様です。」


「仕事で疲れてるわけじゃないけどね。」


と言って苦笑いを浮かべる近藤さん。


「奥さん、まだ見つからないんですか?」


「手掛かり0だ。どこで、何をしてるんだか・・・。」


そう言って、ため息をつく近藤さん。


「俺のことはともかく、子供のことは気にならないのかなぁ。女には母性というものがあると聞いてるんだが、アイツが特殊なのか、それとも俗説が間違ってるのか、よくわからん。」


「お子さん、どうされてるんですか?」


「先週は実家のオフクロ、今週はこっちに嫁いでいる姉貴に来てもらってるんだけど、お互い家庭もあるし、ずっとというわけにはいかないからね。とにかく朝はなんとか、バスに乗っけてから出勤しても、間に合うんだけど、迎えがな。保育園なら、夜の8時くらいまで預かってくれる所もあるそうなんだが、ウチは幼稚園だから、5時が限度だからね。5時じゃ、退庁時間にもならないよ。」


「奥さんの実家はダメなんですか?」


「一人娘の失踪に、パニックになってて、孫どころの騒ぎじゃないみたい。こっちもなんとなくあっちには頼りたくないってのもあるし。」


そういうものなのかな・・・。


「とにかく週末は、子供に目一杯触れてやらないと。とにかくママはどうしたの?どこ行ったの?いつ帰って来るの?の繰り返しだからな。可哀想で見てられないよ。ゴメン、愚痴きかせちゃって。また来週な。」


そう言って、歩き出す近藤さん。その寂しそうな背中を見送るのは辛かった。
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