そのままの君が好き〜その恋の行方〜
私達の母校である明協高校は、今年の選抜の出場は叶わなかった。


ちょうど私達が在学中の頃は、王者として君臨していた我が校も、私達の1つ下の学年が最高学年の時に、夏の大会に出場したのを最後に、甲子園には手の届かない状態が続いている。


「最近はどうなの?ウチの高校。」


「去年の秋は県大会の準決勝止まり。なかなかなぁ。」


「もう5年、甲子園出てないんだっけ?」


「うん。でもあの頃はメンバーが凄かったもん。だって僕らの1年先輩の代はプロ野球選手が4人出てるんだよ。白鳥さんだって、ケガさえなけりゃ、絶対プロだったよ。」


「そうだね。」


「僕らの代も塚原がプロに入ったし、その下の代も2人プロ野球選手になってる。」


「改めて見ると、凄いよね。」


「うん。だから、やっぱり縁というか、巡り合わせって、大切だよなぁ。ウチの高校は、別にスポーツ特待生を集めてるわけじゃないし、他県からの野球留学生がいたわけじゃない。にも関わらず、あれだけの才能がほぼ同時期に集って、あんな快挙が成し遂げられた。そして、そこにうまく紛れ込めたお蔭で、僕も明協黄金期の一員に数えてもらえるようになった。ありがたい話さ。」


「そんな、ご謙遜を。」


「本当だよ。だって、僕らの1年先輩も、1年後輩も、もっと言えば、2年先輩も3年先輩も、3年生、つまり自分達が主力の時に甲子園に行った。行けなかったのは、僕達だけだ。」


「沖田くん・・・。」


「背番号1を背負って、チームを甲子園に導けなかったのは僕だけ。自分の力のなさはわかってるけど、やっぱり悔しいよ。」


淡々とした口調だけど、彼の無念さが伝わって来て、私は思わず、沖田くんの顔を見つめてしまう。


「ゴメン。初デートのドライブで、何話してるんだろうな。」


まっすぐ前を見ながら、苦笑いする沖田くん。


「でも、別にいじけてるわけじゃないよ。甲子園に3回行って、2度優勝。2回目の優勝の時、最後にマウンドにいたのは僕だから。それは誇りに思ってる。」


「そうだよね。」


「それに、本当に大勢の人に、応援してもらった。桜井さんにも、水木さんにも、岩武さんにも。君達が僕の応援に来てくれてたんじゃないことは、わかってたけど、でもクラスメイトとして、くれた声援は力になったし、嬉しかった。そして、今でもこうして仲良く付き合っていられる。やっぱりこれも縁だよね。」


「そうかもしれないね。」


暑い夏の日、汗びっしょりになって、グラウンドの沖田くん達に声援を送っていたあの頃・・・懐かしくも、なんとも甘酸っぱい思い出だ。


「さぁアクアラインを抜けるぞ。いよいよ千葉だ。」


「うん。」


快調で快適なドライブは続いて行く。
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